前回までの記事では、主に愛知県食品輸出研究会の会長を務める平松食品・平松さんの海外進出戦略を特集してきました。今回は、研究会全体として海外展示会などに出展する際、どのように戦略をたてているかにスポットをあてます。
名古屋めしを「ブランド化」し海外進出
「愛知県食品輸出研究会の主な目的は、愛知の食を世界に広めること」と語る平松さん。展示会などで世界のマーケットに発信するにあたり、どこかで愛知県の食をブランド化したいと考えていたといいます。日本国内では、「名古屋めし」は愛知の食の代名詞となり、その名を聞けばひつまぶしや味噌カツなど、何かしら代表的な料理が思い浮かぶ人が多いはず。一方世界では名古屋めしという名は浸透していないばかりか、名古屋という地名さえも知っている人は少ないという状況でした。そんな中、2015年にミラノで万博があり、愛知パビリオンができることに。愛知県としてもこれまで名古屋めしとして食文化の発信活動を行ってきたものの、知名度等を踏まえてこのタイミングで新しいブランドを作ることにしたのです。
新たな名古屋の食のブランド「サムライキュイジーヌ」
ブランド名を「サムライキュイジーヌ」としたのは、海外での浸透をはかるため。愛知には侍文化の神髄があり、長年にわたって培われた伝統ある食品だということをコンセプトにしたといいます。サムライキュイジーヌの目指すところは、愛知の独特な食文化や名古屋めしというスタイルを世界に広めること。試しに香港でこの名称をどう思うかリサーチをかけたところ、好意的な意見が得られました。「サムライキュイジーヌ」ブランドを広める場所として、特に重視したのはアメリカ。世界に向けた情報の発信地・アメリカで認められれば世界の共通言語になると確信していたからです。かくして、サムライキュイジーヌの世界進出が始まりました。
「サムライ」の響きが持つ意外な落とし穴
ところが、すべてが始めから想定通りうまくいったわけではありません。「サムライキュイジーヌ」という名称について、例えばニューヨークではサムライと聞くと筋骨隆々のイメージを持たれてしまうことが分かったのです。一方、本当に伝えたい「愛知の食」の魅力は、県が持つ食の精神にあります。愛知は工業生産高が国内トップである一方、加工食品や農業生産高も全国5位以内と食の街なのです。そして愛知で脈々と受け継がれるモノづくりの精神や精密さは、愛知の食にも繋がっています。このコンセプトをどう世界に伝えるか、今後も世界での反応を見ながらブラッシュアップしていきたいと平松さんは語っています。
このような理由から、サムライキュイジーヌの食材でシェフとコラボする際は、単に食材について説明するだけでなく、シェフに愛知に来てもらって、地域の背景を理解してもらうとより良いメニュー開発につながるといいます。 次回はその具体的な取り組みや、その成果が今後の国内外での戦略にどう影響するかをご紹介します。