海外で挑戦するアーティストや企業担当者をRESOBOXスタッフがインタビューし、経験談やアドバイスを語っていただく「海外挑戦者インタビュー」シリーズ。第十回目は、ニューヨークを拠点に、手ぬぐいをはじめとする日本の手染め製品の普及と販売を行う「WUHAO NEW YORK(ウーハオ ニューヨーク)」のオーナー・キッペンブロック琉璃さんです。前編では、起業した経緯やアメリカにおける手ぬぐいの認知度について教えていただきました。
Q1・手ぬぐいで事業を始めたきっかけは?
A・歴史紡ぐ奥深さ、温かいエネルギーに魅せられて
私は、大阪生まれ横浜育ちの日本人です。高校卒業後、中国へ留学し、北京と上海で商社とアパレルに15年間従事し、2004年にアメリカに移住しました。
05年に癌でなくなった主人の姓がキッペンブロックだったため、今もその姓を使っています。私が手ぬぐいの素晴らしさに初めて気付いたのは、彼の闘病中です。手ぬぐいを頭に巻くものとして使った時に、美しさや奥深さを知り、温かいエネルギーを感じました。
06年にニューヨークへ移住し、手ぬぐいの会社「WUHAO NEW YORK」 を立ち上げ、現在に至ります。日本文化の一つである手ぬぐいをはじめとする本染め製品を紹介しながら、それらの新たな可能性の開拓に挑戦しています。
Q2・具体的な事業内容を教えてください
A・手染め製品の販売とカスタムオーダー品の制作
日本の手ぬぐい会社や問屋など8社から商品を仕入れ、NYで販売しています。染める方法やデザインなど、それぞれ取引先が持つ特徴を生かして商品のバラエティーを出しています。取り扱う商品は、手ぬぐい、暖簾(のれん)、前掛け、半纏(はんてん)、ユニフォーム、座布団など。弊社のオリジナル品や、ニューヨーク在住のアーティストとのコラボ製品も展開しています。
また、アメリカ国内を中心に、カナダやオーストラリア、ヨーロッパなどからカスタム商品のオーダーも受けています。デザインにより染色方法などを検討し、日本の会社に発注しています。クライアントは飲食関係の店、道場、美術学校、指圧スクール、太鼓チーム、刺青師などに加え、個人のお客さまもおられます。
店舗はマンハッタンにあり、常時60種類以上を展示販売しています。また「デザインオフィス兼ショールーム」も構え、来店したクライアントに約300種類をご覧いただける環境を整えています。
Q3・アメリカでの手ぬぐいの認知度や日本文化への関心度は?
A・走り出したばかり。5年後を目標に「TENUGUI」として普及させたい
すしやラーメンなどの日本食がアメリカで受け入れられはじめたのはここ10年来のことです。今では「SUSHI」「RAMEN」共に英語の単語の一つとして一般的になり、小さいスーパーでも当たり前のように販売されています。さらにここ数年のニューヨークでは日本酒がブーム。酒銘柄に止まらず、純米や純米吟醸などの種類を熟知する人が増え、酒文化もかなり浸透してきました。
私は2007年から事業を始めましたが、手ぬぐいに手ごたえを感じはじめたのは、ここ3年程。「TENUGUI」という言葉は、まだ英語とまではいきませんが、一部の人の中で、浸透しはじめていると思います。5年後には英単語の一つとして受け入れられればと、日々精進しています。
Q4・手ぬぐいをNYで浸透させるために具体的に行ったことは?
A・ワークショップやイベントで多様な使い方提案
手ぬぐいを使ったさまざまな使い方を、ワークショップやイベントを通じて広めました。エコを意識した利用方法として「ギフトラッピング」のワークショップを開催した際には、60人が参加する人気のクラスに。また、「手ぬぐいを身に着ける」をテーマにした写真撮影会も実施。頭や首に巻く、腰からぶらさげる、ポケットチーフにするなど「手ぬぐい×ファッション」と題して提案したところ、街中でスカーフとして使う方や、ターバンにする人などを見かけるようになりました。
日常生活に手ぬぐいを取り入れる写真撮影も行いました。実際にマンハッタンソーホーで暮らすアメリカ人夫婦の自宅を使わせていただき、リビングやキッチン、バスルーム、ベッドルームなどの一般家庭の各スペースに合わせて、新たな手ぬぐいの使い方をご提案させていただきました。特にテーブルセッティングは好評でした。実際に手ぬぐいをテーブルナプキンとして使用するレストランも近年増え、マンハッタンにあるミシュランガイド掲載店でも使ってもらっています。
Q5・一般の購入者の用途として多いのは?
A・日本文化を楽しむ アート作品として
イベントなどで販売すると必ず「これは何ですか?」と聞かれます。まずは「手をふくもの」として紹介しますが、本染の販売価格は1枚あたり20ドル以上。アメリカ人の感覚として、タオルの代用品としては高価に感じるようです。そこで檜製の手ぬぐい用ハンガーを使って壁掛けにしたり、額に入れて絵のようにディスプレーしたり、アートとして飾る方法を提案するようにしました。日本文化を飾る「TENUGUI ART」として紹介したことで、販売力は伸びてきています。
<編集後記>
さて、キッペンブロック琉璃さんのインタビュー後編では、商品そのものだけではなく、職人の技術を普及させるための取り組みについて教えていただいています。
また、下記のレストランでは琉璃さんが手掛けた手ぬぐいが使用されています。NYに行かれる際には是非訪れてみてくださいね。
・Sakamai ・Sushi Ishikawa ・Yopparai ・Torishin・Kochi(新しくオープンするレストラン)
●「株式会社RESOBOX」はニューヨークを拠点に、今回ご紹介した展示などバラエティーに富んだ文化事業と、幅広い企業を対象にした海外進出支援サービスを展開しております。問い合わせなど、詳しくはHPをご覧ください