−あみぐるみブランド・Tarturumies編−①ヨーロッパから伝えるKawaii文化


 今年の冬、RESOBOXで開催された年に一度のあみぐるみ展覧会。世界中から3000ものあみぐるみ作品が集められ、3000人以上のニューヨーカーが訪れるほか現地メディアの注目度も高いイベントです。今回はこのあみぐるみ展覧会にスペインから参加している作家のマリア・ベルナデッテさんにお話を伺いました。

Tarturumiesのブランド名で2万5000人以上のフォロワーを持つ人気作家

 アルゼンチンのブエノスアイレスで産まれ、現在はスペインのアリカンテに住むというマリアさんは36歳。幼いころからクラフトに興味を持ち、日本文化が好きなこともあって2015年からあみぐるみのデザイナーを始めました。彼女のブランド Tarturumies は作品の可愛らしさやストーリー性が世界中で人気を博し、今ではInstagramのフォロワー数2万5000人以上。50万人ものフォロワーを持つ人気サイトCentro Pokémonを運営する兄弟のセバスチャンさんや、ご主人のフェデリコさんの協力を受けながら、日々デザインや制作に励んでいます。「私の母が彫刻や絵画が好きな人で、アートへの情熱を引き継いだ私は幼いころからクラフト作りをしてきました。あみぐるみを始めたきっかけは15歳の時。当時看護を必要としていたセバスチャンとなるべく多くの時間を過ごしたくて、学校が終わった後は一緒にアニメを見たり一日のことを話したりしながら過ごしていました。そんな中彼を担当していたナースのうち一人が、赤ちゃん用の服を編んでいたんです。やり方を教えて欲しいと頼んだら、快く引き受けてくれました。」それからというもの、お子さんの服を作るなど編み物はマリアさんの生活の大切な一部になっていきました。この経験があみぐるみの世界に繋がっていったのです。

スペインから展示会に参加したマリアさん

日本文化への理解があみぐるみ作家の道へと導いてくれた

 これまで日本文化と多くの接点を持ってきたと話すマリアさん。「アニメを見るのが大好きだし、寿司レストランでも働いていたんです。そこの日本人一家が日本文化について教えてくれたことですっかり日本が好きになりました。」そんな彼女がSNSで可愛いウサギのあみぐるみを見たのは2013年のこと。カナダ人デザイナーのステファニーさんによる「All About Ami」というブランドのもので、一目で魅せられました。マリアさんの心を捉えて離さなかったその作品が、あみぐるみやその歴史について学ぶきっかけになったそう。「その時は故郷の家族と離れて暮らしていたけれど、あみぐるみが心の繋がりを得られる手段になると気づいたのです。日本では、それぞれのぬいぐるみに魂があると信じられていますよね。いつも共にいて、親友として導いてくれて、悲しい時や戸惑っている時に私達を守り落ち着かせてくれる。当時の私にとってあみぐるみはまさにそんな存在で、遠く離れているにも関わらず家族のことをもっと身近に感じさせてくれたのです。」それから甥っ子や兄弟たちのためにあみぐるみを作り始めたマリアさん。そのうちのいくつかは、自らの想像力を活かしてデザインも行ったそうです。
それから何年か経ち、2015年の中盤。あみぐるみとクリエイティブ・スイーツという2つのアート活動を融合させることでマリアさんのプロジェクトは始まりました。最初はクリエイティブ・スイーツの作り方ビデオと無料のパターン(編み図)を提供することで、他の人がマリアさんのあみぐるみデザインを作れるようにしたそうです。そのうちこのプロジェクトが世界中に広がり、あみぐるみがマリアさんの主活動になってきたのでこれに集中することを決心しました。2018年には更なる投資をしてETSYアカウントを作成。Amigurumi Patterns.netなどあみぐるみの有名コンテストにも2つ出場し、そのうち1つで3位入賞を果たしたのです。
 作品をユニークにするためにマリアさんが心がけているのは、まずデザインを考えるときにいつも違う感覚と気持ちを持つこと。「あみぐるみの一番の特徴となるのは目で、そのまなざしが心を反映する。あみぐるみを通してフォロワーの皆さんの心に届くようにしたいと考えています。もう一つ気にかけているのは、Kawaii、そして魅力的な見た目にこだわること。」これはあみぐるみに特に欠けてはならず、マリアさんの作品を完成させるのに絶対に必要なものなのです。「初めてあみぐるみに触れた日と同じ熱意と愛情を持ちながら、私は今日も作品を作り続けています」

コンテストで入賞したマリアさんの作品の例

知られざる編み物大国・スペイン

 ところで、マリアさんが住むスペインでは編み物をする人は多いのでしょうか?必要な材料は手に入るのかを聞いてみると「スペインで編み物が流行り始めて数十年になります。おばあちゃん世代がよくアートとして楽しんで、今では違う世代に引き継がれています。編み物をするために外で集まり、友達とリラックスした時間を楽しむのが習慣になっているんですよ。スペインには毛糸を売るお店自体はありますが、直接行けるお店の種類はそんなに多くありません。地元の毛糸業者は少しずつ大きくなっているけれど、大抵はオンラインで売られていますね。材料を快適に手に入れることができて、世界中の様々な毛糸ブランドを扱っているオンラインショップがたくさんありますから。スペインにはあみぐるみの教室や雑誌もありますよ。」というように、かなり編みものが浸透しているように見えるスペイン。一方あみぐるみがスペインに登場したのは数年前のことですが、当初はほとんどの人が知らなかったそう。「あみぐるみは日に日に成長している分野で、どんどん有名になってきています。今ではあみぐるみを始める人や作り方を教える人を多く見かけるし、あみぐるみを探して買う人はさらに増えてきています。」あみぐるみのプロデザイナーはスペイン語圏に散らばっており、SNSを通じてお互いに繋がっているのだそう。

編み物を楽しむスペインの人々

 マリアさんは現時点では完成品のあみぐるみではなく、デザインとパターンを多言語で販売しており、スペインやアメリカ、アルゼンチンなどを中心に世界中に顧客がいます。そして今回ニューヨークのRESOBOXで行われたあみぐるみ展示会への出展を決意。次回はなぜ出展を決めたのか、今後どのようにあみぐるみを広めていきたいかをお伺いします。

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