創業して10年、ここニューヨークに拠点を構え、これまでに400回以上の様々な文化イベントを主催してきました。「NYから世界へ日本文化を広める」という、うちの会社のモットーに当てはまれば、制限や枠はあえて作らず挑戦。
例えば、日本の伝統工芸士による実演&レクチャー、日本酒の試飲会、映画監督を呼んでのトークショーなど…。これらの内容はHPでも見ていただけるのですが、RESOBOXや僕のことを知っていただけると思うので、ブログでも綴っていこうと思います。
2015年7月7日開催「トルコのカルチャーセンターとの交流イベント」について
●イベントページ(←内容を英語でご覧いただけます)
何故(NYの中心地であるマンハッタン地区ではなく)クイーンズ地区で創業したのか?とよく聞かれます。「人種のるつぼ」といわれるニューヨークの中でもこのクイーンズ地区は、150以上の言語が話されるといわれるくらい様々な人種がいる場所なのですが、世界に数多ある文化の一つに過ぎない日本の文化がこの世界中の文化が混ざり合っている地域に住む人たちに「どう受け入れられるのか?」ということに、とても興味がありました。
そもそも僕の会社のミッションは、
「日本の文化と他国の文化をどのように融合させるか?」
「融合して生まれた新たな文化をどのように浸透させていくのか?」というところにあります。
僕自身の興味をそそる部分であり、さらにビジネスにしていますので、これらを実践するのに、世界中の人種が集うクイーンズ地区が最適な場所だったという訳です。
そしてこのトルコ文化センターとの交流イベントを開催するに至った経緯がまさにそこに現れています。
たまたま通りがかったクイーンズ地区のサニーサイドという駅の前で、トルコ系住民による文化パフォーマンスが行われていたのですが、それを見た途端、まだ僕が20歳前半に日本で大学生をしていた頃、トルコを含む東欧にバックパッカー旅行に行った時に見た光景が鮮やかに蘇ってきました。ふと気づくと数時間その場にいて周囲の方とお話したり、食事を頂いたり、、、
これは「何か彼らと一緒にできないかな」と。
その場は主催者の皆さんはお忙しそうだったので、自宅に帰ってすぐに「僕は日本文化に関わる仕事をしているのですが、交流をしませんか?」とメールしたところ、
「面白いね。NYに住む日系人にトルコのことをもっと知ってもらいたいので是非」と即答が。
これってNYの街ならではの出会いですよね。
数日後にセンター長と面会をしイベントの内容を詰めていく中で、イスラム教徒が日の出から日没まで断食する「ラマダン」の後に最初に食べる食事「Iftar (イフタール)」をぜひ紹介したいという提案を受け、では、まずはトルコと日本の文化芸能を披露し合い、終わった後で食事会で交流しようということに決定。以下ポッドキャスト番組では、より詳しく語っていますので是非聞いてみてください。
普段NYに住んでいて周囲に多くのイスラム教徒がいる生活を送っていても、ラマダンって知っているようで実は実際に触れる機会はなかなかないものです。イベント開始まであと一ヶ月しかない。やばいやばい。早速リサーチ開始。
ネイ、エブル、三味線、日本舞踊、居合、墨絵。コラボの可能性は?
さて、イベント当日のパフォーマンスですが、まずトルコ側の「ネイ(Ney)」の演奏から始まりました。
葦でできた伝統的な縦笛で、顔の角度を少しずつ変えることで半音くらいの音の違いを出たりするのですが、この音色が本当に美しい。やわらかく揺らぎ、そこにビブラートがかかる。その演者にしか出せない唯一無二の音。まさに脳髄ごとイスラム教の神秘的な世界に持っていかれるような感覚。
イスラム礼拝を呼び掛ける声”アザーン”を使ってしまい「鬼滅の刃」のサウンドトラックが出荷停止になったようにイスラム世界では「音楽は快楽を生み出すもの」として禁じられていますが、「スーフィズム(イスラム神秘主義)」からきている「スーフィー音楽」と呼ばれるジャンルは、宗教のための”音”であって、”音楽”とは別ものの扱い。
正直なところ「食」や「性」と同様、音楽って心を動かされたり気持ちよくなったりと、文化の入り口としては入りやすいんですよね。
「イスラムという我々と距離がある世界を知るきっかけとして、「音」はとても良い役割を果たしてくれたよね」
と同イベントに参加した日本側のパフォーマーがつぶやいていましたが、まさにその通りでした。
次に披露して頂いたのが「エブル(Ebru)」。
こちらは「マーブリング」といって、水面にポタポタとインクを落とし、水表でコントロールしながら図柄を制作。最後紙に写し取るというアートです。
水は常に動き続けるものなので、絶対同じものは作れないのが魅力。
マーブリングという名前からも想像いただける通り、完成品は美しいマーブル柄に仕上がります。
当日は30代ぐらいかな? 男性の作家さんが15分程度で実演。動作はゆっくりなのですが、手際良くて無駄な動きが一切なく、作る過程も完成した作品も本当に美しかったですね。
次に我々、日本側からはまず最初に三味線バックに日本舞踊「松の緑」、次に居合刀を使った演舞を披露。僕自身も主催者の一人としてスピーチをしながら、居合道のパフォーマーとして師範と一緒に参加。
その次に、「墨絵」の作家さんによる10分程度での即興アート制作。Ebruを見せて頂いた直後だったので参加者全員が両者の違いを体験できたのは良かったですね。
食事交流会では各パフォーマーと話をする中で、自然と「お互いの国が持つ文化をミックスさせて、アートを生み出せないか?」という可能性について話が進み出します。
例えば、Ebruでは水面にインクを落として図柄を作るのですが、日本にも「墨流し」という同様の手法があるので、お互いの手法でかぶるところを取ったり、お互いが使ってる材料の交換をしてみたり、工程ごとで分担して一つの作品を作り上げる…などなど。
このような僕の提案に対して、トルコの方々から「お互い学びながら、新しい作品を作っていきたい」と非常に興味を持ってもらえ(むしろ先方の方がかなり前のめりになり笑)、多くの意見が飛び交いました。
僕自身がやりたいと考えている「日本の文化をベースに、様々な他国の文化を融合させた新しいものを作り出していく」というコンセプトを実現させるために、千年、二千年…と長い時間をかけて既にアジアとヨーロッパの間で様々な文化を育んでいる「トルコ」は、ぴったりの国。
お互いの文化を知り交流し合うことがビジネスにとって重要
日本とトルコとの繋がりの話をすると、歴史的には1890年の「エルトゥールル号遭難事件」や、その100年後のイランイラク戦争での「テヘラン邦人救出」の件など、色々と美談があるのですが、それだけではなくビジネスでの交流も盛んです。
広島に本社がある「チューリップ」という手芸用の針を作っている企業があり、「世界あみぐるみ展」の関係で伺った時に会社の方から直接聞いた話(【日本文化探訪記】300年以上続く「広島針」 チューリップ株式会社(広島県))なのですが、
伝統的なこの手芸としてのレース編みが盛んなトルコでは、チューリップ社のレース針を知らない人はいないほどの知名度が高く、トルコにおける針のシェア率は8割以上。あまりにトルコで商品が売れるので、社名もトルコの国花である「チューリップ」に変えてしまったのだそうです。
僕自身、在米の日本人として、上記のように文化面を含めた様々なシーンで交友を持ち、ビジネスでも互いに協力し合える関係を構築しようと動いていますが、チューリップの商品を、アメリカ社会にももっと浸透させるために、「現在米国に100万人いるとされているトルコ系アメリカ人の方々のご協力を得るのも一つの手段」なのかもしれません。
ビジネスも最後は人間同士の信頼が重要な要素であるというのは誰もが納得するところだと思います。このようなアートや音楽でのコラボレーション、人的交流を通しお互いをより尊敬・理解し合うことが長い目で見て両者にとって大きな効果を及ぼすと僕は信じ、これからも活動していこうと思っております。
2020年の2月には「Queens College」という、同地区にある音楽で有名な大学のパフォーミングアーツ学部のトップから「あなたが日々行っていることは面白いから、うちの学校で何かプロデュースをして欲しい」と突然連絡が来て、実際にお会いして話を伺うと「うちの大学に所属する、多国籍のパフォーマーたちが協力するので、日本のパフォーマーと一緒に何かやろう」という嬉しいリクエストでした。
もちろん快諾させていただいたのですが、現在コロナ禍で話が一旦止まっている状態です。落ち着き次第、再開予定ですので楽しみにしていてくださいね。