【日本文化探訪記②広島筆産業(広島県)】筆の生産で日本一!「熊野筆」の魅力に迫る

熊野筆 工場見学

今回ご紹介するのは日本一の「筆」の産地・広島県熊野町。町内で穂首が製造された筆を「熊野筆」と呼び、人口の1割にあたる2千人以上が産業に携わっています。書道で使う「書道筆」はもちろんのこと、スタジオジブリが「日本画筆」を愛用していたり、サッカー女子日本代表に「化粧筆」が贈られたことでも有名です。熊野筆の特徴は、筆先をカットせずに自然な毛先を活かしたままで製造すること。この製法ならではの柔らかな触感が人気の秘密です。

江戸期から続く筆づくり

熊野町で筆づくりが始まったのは江戸時代後期。出稼ぎ農民が伝えた技術を基に発展したといわれています。1975年には国の伝統的工芸品の指定も受けました。町は、筆文化再生のため、春分の日を「筆の日」とする全国初の条例を制定。町内には、筆の歴史が学べたり、伝統工芸士が筆作りを実演、指導する体験型ミュージアム「筆の里工房」もあり、熊野筆の魅力を発信しています。

1本の書筆に10種類以上の毛をブレンド

今回伺ったのは、1881年(明治14年)創業の老舗「広島筆産業」。書道筆をメインに、化粧筆や画筆も作られています。案内してくださったのは社長の城本健司さん。筆作りの現場を見学させていただきました。
工房に入ると、優しい杉の香りがふわり。防虫対策として、天然の香りを使用しているそうです。まず目に飛び込んできたのが、種類ごとに綺麗に分類された動物の毛の束。「松リス」「熊毛」「うさぎ」「スカンク」など10種以上が並んでいます。

「チークブラシなどを購入する際に、〝リス〟〝ポニー〟と表記されているのはこれかな…」と、思いながら眺めていると、「今ここで作っているのは書道筆です。1本の書道筆を作るには10〜15種類の異なる原毛を混ぜ合わせます。筆によって原毛の配合の割合、カットする長さ等が異なり、これを毛組みと呼びます。料理でいうレシピのようなもので、我が社には100年以上語り継がれた200類以上の毛組み表があります」と城本さん。
太い毛は墨をよくふくんだり、細い毛は毛先の動きをスムーズにしたり。それぞれの毛に重要な役割があるのだそうです。まさか、一本の筆に、多くの種類の毛が使用されて、レシピまであるとは…。目から鱗が落ちました。

経験豊かな職人技が不可欠 

工房では2人のベテランの女性職人が黙々と仕事をされていました。
機械化が進む現代ですが、筆作りの細かい作業は機械では不可能な部分が大半と言います。職人が行う12工程の一部を紹介すると、①天然の原毛に熱を当てて真っ直ぐに伸ばす「火のし」②綿毛や弱い毛を手作業で取り除く「毛そろえ」③約10種の毛に、何度も櫛を通しながら均一にブレンドする「 練り混ぜ」④まとめた毛を麻糸でくくり「焼きごて」で焼いて固める「 糸締め」など。これらの作業はどれも経験を積まないと美しく仕上げられない職人技です。

職人の華麗な早技に圧倒

ちょうど「毛そろえ」の作業中だったので近くで見せていただきました。目で追えないほどの早さで(しかも正確に!)、使いものにならない綿毛(わたげ)や基準に満たない毛を、次々と取り除かれていました。城本さんは「弊社では、この段階で原毛の半分程度を取り除きます。基準を満たさない毛が一本でもあると書き味に大きく影響するからです。中国産はこの段階で2.3割しか取り除かない。日本産の筆が高品質な理由の一つですね」と教えてくださいました。

書道マインドフルネスとして海外へ

筆づくりの素晴らしさに感動した後は、水書きでの書道を体験させて頂きました。いざ文字を書こうとすると、姿勢や呼吸が自然と整い、集中力がグッと高まります。滑らかな筆の動きも体感できました。


書道の魅力について伺うと、「書道筆の良さは、三次元の動きが可能なところです。書道の技法である〝はらい〟や〝ため〟〝とめ〟などは、ペンや鉛筆の二次元の動きでは表せないですよね」。
また、今後の可能性について「私は心を落ち着かせるために書道を行います。海外でマインドフルネスのアイテムとして普及できたら嬉しい」と教えてくださいました。

広島筆産業・社長の城本健司さん

実は弊社のNYのカフェギャラリーでも、来店されたお客様に書道を体感してもらうイベント「コミュニティアートプロジェクト– ENSO(円相))」を2012年に開催したり、俳句の展覧会「Poetry of Nature」を2019年に開催したりしています。今後、NYで広島筆産業様と一緒に書筆の普及活動ができたらと考えております。

当社はアメリカでニューヨークを拠とし、日本の素晴らしい文化や伝統を世界に発信したり、日本から海外進出する企業様のビジネスをサポートしたりしております。当社は、伝統の技や培われた技術をできる限り現場と近い視点から多くの方に伝えるため、工場や工房に伺わせていただき、そこで遭遇した感動や発見を、NYで扱わせていただく商材と共に現地の方に届けています。
本コーナーはこれらの経験を「日本の方々にも知って頂きたい」との思いからスタート。自国の文化や技術を見直すきっかけに、または旅の参考などにしていただけると幸いです。

●広島筆産業のHP  https://www.artbrush-hiroshima.com/
●筆づくりの工程は、熊野町のシンボル施設「筆の里工房」のHPに詳しく掲載されているので是非ご覧ください http://fude.or.jp/jp/kumanofude/flow/
※筆作りの工程また、筆作りの工程や用語は、各社で多少異なります

●「株式会社RESOBOX」はニューヨークを拠点に幅広い企業を対象にした海外進出支援サービスと、バラエティーに富んだ文化事業を展開しております。問い合わせなど、詳しくはHPをご覧ください→https://resocreate.com

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