海産物に対する消費者の意識に変化。対応を迫られる米国企業

トレーサビリティの必要性

米国の小売店業界のニュースを取り上げるメディア、Progressive Grocerが7月9日「Ocean Health Is Wealth」と題し、消費者の海産物への意識の高まり、また各企業の対応について興味深い記事を書いています。

環境負荷の少ない健康的な食に関し啓蒙活動を行なっているChanging Tatesが2020年に行なった調査によると、アメリカの消費者は有害重金属、プラスチック、放射能、養殖の際に餌に使われる抗生物質など、海産物に含まれる多くの有害物質に対しより目を向けるようになっており、アンケートに参加した80%以上の人が、乱獲による水産資源の枯渇化以上に、深刻な問題と捉えているとのこと。

このような消費者の意向を受け、米スーパーマーケットチェーンであるThe Stop & Shop(ストップアンドショップ)はOcena Disclosure Project (ODP)への参加を決定。同ウェブサイトでは、Publix(パブリックス)やWalmart(ウォルマート)など大手スーパーマーケットだけでなく、Blue Apron(ブルーエプロン)など幅広い食関連企業が自社が販売する海産物がどこの海洋でどのような方法で漁獲されたものか、または養殖されたものかなどの情報を自主的に開示しています。

このような動きは消費者にとって当然歓迎されるものではありますが、商品のレーベル、認証制度など混乱を生じさせる表記は多く、販売業者による改善の余地は大いにあり、水産業界にて様々なコンサルテーションを行なっているOcean StrategiesのBrett Veerhusen氏によると、「農作物に比べ、海産物生産者に関するストーリーが圧倒的に足りない。漁獲場所などの情報に加え、いかに資源に対しサステイナビリティ(持続可能性)への配慮が成されているか、またそれらが我々人間、海、魚にとってどのような意味をもたらすかという点を消費者は知りたがっている」とのこと。

同記事では具体的な施策として、スーパーなど最終消費者と接するリテールがローカルの漁業団体と連携し、販売されている商品に関し一体目の前で売られている魚は誰が漁獲したものなのか、どこで養殖されたものなのか、漁師や生産者の顔や彼らの日々の仕事風景などを取り上げ、SNSに流したり店頭でアピールをしたりする方法や、また米国における管理栄養士であるRegistered Dietitians(RDs)による店頭での FacebookやInstagram Liveを通しての販促活動も有効な手として挙げています。

農産物におけるトレーサビリティの必要性に関しては先進国では喫緊の課題となっており、この点において日本は2000年代初頭から取組が進んでおり、大手スーパーでは「xx産」「xx農家による」など表示が見られるようになりましたが、システム化されているわけではなく透明性がなく、かつ産地偽装などの事件が起こるなど信頼性に欠けるところがあったかと思います。一方米国では遅ればせながら、特にここ5年でしょうか、食の安全に関しより消費者が顕著に敏感になってきたことを受け、Whole foodsなど大手小売がオーガニックの次のキーワードとしてローカル(地産地消)を掲げ生産者がより見える形での販売方法を模索しておりますが、この流れがようやく海産物にもやってきたということです。

上記記事でも取り上げられているODPの取り組みは興味深いものがあります。情報の量、またその正確さについても議論の余地はありますが、大手が参加することでより発展していくことが期待されています。またブロックチェーン技術を使った食のトレーサビリティシステムの構築に関しても様々な企業が取り組んでいますが、サプライチェーン上にある全ての企業、時に個人が同システムに参画しデータを提供しなければならないという点において、他業界と比べIT化が遅れている食業界にとって乗り越えなければならない課題が多くあるようです。

また、利益率が低い業界である以上、やはり最後は各作業のコストが気になるところ。透明性が確保された商品に対して消費者がどれだけのプレミアム、追加金額を払うのか、、、まだまだそのようなデータがない中、これがビジネスとして成り立つのか暗中模索というのが各社本音ではあるかと思います。

消費者の信頼を得るという点においては、記事で書かれているように、弊社でもクライアントには「商品力だけではなく、背景にあるストーリーが大事」と伝えています。

その点において個人的に参考になると思っているのが、米国イチゴ生産大手のDriscoll’s社のSNSの取り組み。

4万人近いフォロワーがいる同社のYoutubeチャンネルでは、生産者の顔を出し、同社のイチゴがどのようにして、また誰によって作られているのかが見られるようになっています。これらの取り組みが消費者の商品への信頼性を高め、より高い値付けを可能にしていくのかと思います。価格競争に巻き込まれるのではなく、より高く売るにはどうするか、このような同社のイメージ戦略は広告費を賄うだけの十分な効果を生み出していると思われます。

6月21日にNew York Timesによる記事「The Big Tuna Sandwich Mystery」(サンドイッチチェーンのSubwayで使われているツナは本当にツナなのか)が話題となりましたが、ここでの議論のポイントは、同チェーンがツナでない魚をツナと呼んで提供しているかどうか(真偽は不明)ではなく、果たして我々が日々食べている魚は、本当にレーベル通りのものなのか、またどこで漁獲、加工されて我々の口にまで運ばれたきたのかもっと消費者は興味を持つべきであるということでした。

ミレニアム世代を中心とした健康志向、環境への意識の高まりを受け、他社との差別化という言葉で語るにはあまりに陳腐なほど、数年後にはこのような取り組みを行うことが当たり前の世の中になっているのかもしれません。