近年、米国における(特に若年層)アジア人への印象は時にネガティブに、しかし大勢としては大きくポジティブに変化し始めています。今回は世界に活躍の場を広げる韓国のアーティストを例に挙げながら、アジア人の欧米社会における存在感とその変容についてお話しします。
同名のポッドキャスト番組もオンエア中です。米国で現在俳優として活躍するアシスタントのアレックス・ホールデンの実体験も含め、今回ブログで綴る内容をより詳しく解説しています。ぜひ聞いてみてください。また、米国のエンタメ事情に関しては、「4月23日、米国で映画「鬼滅の刃」上映スタート」ページの記事でもお話ししています。
マクドナルドとBTSのコラボメニューはグローカル企業としての新たな試みか?
さて、NYCのマクドナルドで5月末、韓国の男性音楽グループ BTS(防弾少年団)とのコラボセットメニュー「BTSミール」($8.5)が発売されました。内容はチキンマックナゲット10個、フライドポテト(ミディアムサイズ)、飲み物。普通に計算する$6程度なのですが、そこに韓国的なケジャンソースとスイートチリソースを加え、$8.5で提供されています。私も折角なので注文してみましたが、ソースのみが異なるだけだったため、強気な価格設定だなという印象。「消費者はこれで満足するのか?」と疑問すら感じましたが、今後おそらくそれなりの売り上げとなることは確かでしょう。
もちろん背景としては、アメリカでは5月はAsian American and Pacific Islander Heritage Monthで、アジアに関するイベントが多数行われていたため、その一環であったと想像できますし、何よりマクドナルドのようなグローカル(グローバル+ローカルという「地球規模の視野で考え、地域視点で行動する、Think globally, Act locallyという考え方)を代表する企業が「特定の地域で販売ししている商品を期間限定で他の地域でも展開してみよう」という試みなのかもと思ったり。
日本の「月見バーガー」が米国で限定発売される可能性もあるかもしれませんし、物流面で大きな負担になるとはいえ現地生産のできないもの、例えばスターバックスの地域限定商品、例えば広島県の厳島表参道店のみで販売されている宮島御砂焼きマグカップがフランスの店舗で売られたり(生産量はこの際無視するとして)、グローバルチェーンを通してそのような日が来たら、他国のローカル文化をシェアするという側面において、面白いなと思うところです。
韓国勢のビジネス展開に着目
上記でも書いたBTSは、数年前から欧米のエンタメ界でアジアの筆頭として活躍されています。ニュースサイト「Business Watch Korea」の報道によると、 BTSメンバーのJiminが「韓国ブランド・サムヤンのインスタントチキンラーメンを食べて、あまりの辛さで涙目になった」と動画をツイートをしたところ3000以上の「いいね」がつき、1000回以上もシェアされ、同ブランドのラーメンの売り上げがぐんと伸びたとのこと。これはほんの一例であり、彼らがSNS にアップした私服や持ち物、食べたものがバズることは日常茶飯事です。
彼らの活躍は以前から際立っていましたが、今後はより加速しそうです。その要因となるのが、 BTSの所属事務所「HYBE(ハイブ)」が、米メディア企業「イサカ・ホールディングス」を10億5000万ドル(約1160億円)で買収したというニュース。イサカ・ホールディングスといえば、J・バルヴィン、アリアナ・グランデなど有名アーティストが多数所属し、ジャスティン・ビーバーをYoutubeで発掘した敏腕プロデューサーのスクーター・ブラウンがいることでも有名。このことから、強力なサポーターを得たK-popが、欧米を含む世界でさらに飛躍するだろうと推測できます。
ちなみにHYBEは昨年、新規株式公開(IPO) して話題になりました。そのIPOの前に、株式をBTSの各メンバーにストックオプションとして与えており、結果として BTS のメンバーは株式の上場と共に一人当たり日本円で10億以上の報酬を得ることに。「一緒に上場を目指そう」と所属アーティストに報酬の一部として株式を与えることが珍しくないシリコンバレーのIT企業のように、エンタメ業界でも今後当たり前の光景になってくる可能性を秘めています。
韓国のアーティスト 欧米ブランドの顔に次々と指名
K-popグループで米国のビジネスに食い込んでいるのはBTSだけではありません。女性グループの「Itzy(イッジ)」は今年3月、ロレアル(フランス)傘下の「メイベリンニューヨーク」(米国)のアンバサダーに選ばれました。また、同じく女性グループの「BLACKPINK」のロゼ(ROSÉ)は、Tiffany & Co.がアンバサダーに指名。ちなみにBTSはLOUIS VUITTONのアンバサダーに就任しています。
ここで注目すべきは、彼ら韓国人スターの影響力。個人アカウントでフォロワー4000万人超のメンバーが多数おりますし、世界を見渡すとフォロワー数が億を越える方も少なくありません。しかし日本ではフォロワー1000万人を超えるインフルエンサーはまだおらず、グローバルな視野で考えた時、日本と米国を拠点に活躍する有名人では、影響力が比にならないほど違うわけです。
アジア人に追い風 マイノリティーを重視する風潮
では、彼らが実力だけで欧米ブランドなどの顔として選ばれているのか? もちろん努力して培った実力と人気も大きなファクターですが、時代背景も影響しています。
近年、欧米のビックブランドでは多様性が求められており、経営幹部のみならず社員やターゲット層に至るまで「女性」「マイノリティー」の比率を上げないといけないというプレッシャーがあります。「ブラック・ライブズ・マター」「アジアンヘイト」などのムーブメントもあり、この流れを軽視し成り立つブランドは今後生き残ることはできないと言っても過言ではなく、時に無理やりにでも該当する人材を探し、多様性を生み出さないといけない風潮となっています。
そのため、これまで欧米の企業イメージとして、アジア人が採用されることは頻繁ではありませんでしたが、今後は「白人」「黒人」に加え、「アジア人」が加わることが一般的になると考えられます。
この一年で多くのブランドのホームページのトップ画面の写真に黒人モデルが採用されるようになり、数年後にはアジア人モデルにもこの流れが来ることは間違いがないと思われます。
これまではアジア人というと言語の壁があったり、若年層へのアピール度が低かったりしたため、欧米ブランドのイメージ戦略に採用されにくい現状がありました。また、私自身が長年アメリカで暮らしていて、特にアジア人男性(トップアスリートなど有名人はもちろん別です)の白人など他人種と比較した際の立ち位置を見るに、彼らが世界的なマス向けブランドのフロントマンとしてPRの前面に立つ機会はこれまでは極端に限られてしまっていたということは認めざるを得ませんが、今回、BTSがそのような現状を打破する扉を開いたことは事実でしょう。
現地に住む一般消費者の好みに合った商品を作ることは言うまでもなく大切なことですが、人種という枠組みの奥に存在するネガティブなイメージを排除し営業活動ができたらどれだけ異なる結果になるのだろうと、個人的には期待するところです。
日本のエンタメ界が世界に飛び出す日も目前か
ただ、BTSは韓国のアーティスト。「これが日本のアーティストであれば」と、個人的には少し悔しい思いもあり「日本人に世界でもっと活躍してほしい!」と思ってしまいます。
もちろんここ数年は日本勢の活躍も素晴らしく、俳優だと小栗旬さん、秋元才加さん、 忽那汐里さん、ジャニーズからは現在ロスで活動してる赤西仁さんも米国へ進出されていらっしゃいますし、MIYAVIさんや BABYMETALなどのミュージシャンや渡辺直美さんやピースの綾部さんなどマルチタレント、さらには先日ご結婚された星野源さんと新垣結衣さんがニューヨークに拠点を移しアメリカで活動するかもといった噂もあります。
米国のみならず田代良徳さんのようにインドで人気がある方や韓国でのNCT 127のユウタさんなどなどキリがないのですが、こういった日本で人気のある若い層の方々が世界で活躍し、インフルエンサーとなり、現地における日本人の代表という枠組みを超え、グローバルな海外企業の顔になってくれる方々増えてくる日も近いなと楽しみにしております。
日本からもBTSのようなスターをどんどん輩出して欲しい。そして、世界の舞台でアジア人が活躍できる場が広がりつつある今こそ挑戦する好機ということです。