一風堂、一蘭、家系ラーメン…ニューヨークを歩いていると、あちらこちらに日本のラーメン店があります。しかも、店の外には長蛇の列。行列に並ぶのが嫌いなはずのアメリカ人がわざわざ長時間待ってでも食べたいと思わせるほど、今日本のラーメンは大人気なのです。そして驚くべきはその値段。日本とまったく同じラーメン(または量やトッピングが少し少ないこともあります)でも、日本円で1杯約1500円~2000円が相場。今回は、この主な理由についてご説明します。
また、米国のラーメン事情に関して、無料で聞いていただけるPodcast番組でもお話ししております。
1. 人件費
2018年末時点で、東京都の最低賃金は985円。一方、ニューヨーク市の場合、11名以上の従業員がいるファストフードチェーンは15ドル。日本円にして約1700円前後です。なんと1.7倍も差が!2016年末までは11ドル(1200円強)でしたので、たった2年で最低賃金が大きく引き上げられていることがあります。ニューヨーク市以外の郊外でも2021年までに最低賃金を15ドルにすることが求められており、アメリカ全土で最低賃金アップの取り組みは広まっています。ファストフード店でこのような賃金体系になると、その他のレストランやカフェでも人材確保のために時給を上げざるを得ません。これがラーメンの値段を上げる要因の1つになっています。
2.物価
人件費が上がる主な原因は物価の上昇。生活必需品だけでなく、家賃や交通費に至るまで、ニューヨークの物価はここ数年で明らかに高くなっています。例えば美術館や博物館の料金を東京と比較すると、内容にもよりますが多くは1000円~1500円、ニューヨークでは25ドル(約2800円)前後です。東京タワー展望台の入場料は820円、エンパイアステートビルのメイン展望台は38ドル(約4200円)です。物価が高いということは当然仕入れのコストや店舗の家賃も高くなり、これが商品価格に反映されるのです。
3.輸送費
とんこつラーメン・一蘭さんのNY1号店横には、製麺工場があります。日本と同じように、出来立ての麺を食べて欲しいという思いからだそう。このように日本の味にこだわると、日本産小麦やスープの空輸などに繋がり、結果輸送コストは跳ね上がります。しかし日本の味にこだわったラーメン店と、アメリカンなラーメン店では明らかに質が違うので、ここは削れないコストと言えるでしょう。
4.回転率
一蘭さんはニューヨークでも仕切り型の味集中カウンターを採用しています。食事に集中させることでお客さんの回転率を上げ、販売数を増やす狙いもあるのでしょうが、それでも日本と比べて食後長居している人が多いように見受けられます。日本では当たり前のマナーとなっている「食べたらすぐ退店」というルールを、アメリカ人に浸透させるのは至難の業なのかもしれません。当然ですが、お客さんひとりあたりの滞在時間が増えるほど販売数は落ちます。ひっきりなしにお客さんが来る、行列のできる店ならなおさら顕著です。これを見込んだ値付けが必須になるというわけです。一方、ニューヨークではUber Eatsをはじめとしたフードデリバリーサービスが充実しており、いくつかのラーメン店ではこれを利用することで販売数を上げています。
アメリカ人の感覚にあった値付けを
1杯2000円のラーメン、ニューヨークでは妥当な値段だということがお分かり頂けたでしょうか。こちらの記事でラーメンは日本のものをそのまま持ってきて成功している数少ない商品であるとお伝えしましたが、それでも価格においては大きな差をつけざるを得ないのです。かといって、無尽蔵に商品価格を吊り上げていいわけではもちろんありません。海外進出の際に価格設定で気をつけたいのは、狙うターゲットにとってその商品が高いと感じるか、安いと感じるか。まずはテストマーケティングで妥当な商品価格の感覚をつかみ、これに合わせたコスト設計および商品開発が必要なのです。
米国でのラーメン事情に興味のある方はこちらの記事「ラーメン店「Japanese Soba Noodles 蔦」 ニューヨークへ進出!」もチェックしてみてください。