前回の記事では、日本のわさびとアメリカで流通しているわさびの違いをご紹介しました。日本人にとっては寿司のお供として欠かせないわさび、その独特な風味や味わいは、アメリカ人にはどのように受け入れられているか、今回クローズアップします。
わさび好きVSわさび嫌いで意見は真っ二つ!?
ニューヨークで販売されている寿司は、わさびがすでに入っているものはほとんど見かけません。カリフォルニアロールをはじめとした巻き寿司だけでなく、通常のサーモン寿司などでもさび抜きの状態で売られているのが一般的です。わさびはパックの端に盛られているか、別パッケージで自由に取っていくスタイル。というのも、わさび自体の認知度は広まっているとはいえ、実際はさび抜きで食べる人が多いからなのです。また、わさびの本来の作用である抗菌効果などについて知っている人は少なく、ただ寿司に辛味を加えたい人がつける、と認識しているよう。同じ「辛味」でもアメリカ人に親しみがあるスパイシーな辛味とは違うので、受け入れられないという人も多いのだと考えられます。一方で、寿司を買っていくときに山盛りの別添えわさびをオーダーする人も少なくありません。一部のアメリカ人は、日本人では考えられない量のわさびを寿司につけているのです。
わさび好きアメリカ人のこだわり
このように一部存在する熱狂的わさび好きのアメリカ人にとって、大切なのはどんなポイントなのでしょうか?意見を聞くと出てくるのが「涙が出るほど風味が強くなければ意味がない」というもの。また、「少しつけるだけで風味が長く残るのが重要」といった意見も。ここまでのわさびファンは本わさびとホースラディッシュわさびの違いを当然認識しており、日本メーカーの本わさびは何倍も強力で素晴らしいと評価、日系スーパーなどで買い込むことも多いようです。前の記事でご紹介したアメリカで展開されているバラエティ豊かなわさび系スナックも、このようなファンに支えられていると考えられます。一方ホースラディッシュわさびに慣れた人が日本の寿司店などで本わさびを初めて食べると、辛さの違いに驚くことも多々ある模様です。
ミシュランシェフから熱視線をうける本わさび
今、ニューヨークの高級レストランでは日本食材を積極的に取り入れているお店が非常に増えています。具体的には醤油や味噌などの調味料のほか、ゆずや大根をはじめとした食材など、もはや日本食材なしにミシュランレストランは語れないといっても過言ではないほどです。このようなトレンドの中、わさびの独特な風味に着目しているシェフも多く、わさびの可能性は日本を飛び出して日々広がっていっています。実際に世界では日本食の広がりとともにわさびが栽培されいてる地域は増えており、アメリカではオレゴン州の個人農家が水耕栽培を成功させた他、カナダの企業は独自の温室技術により、世界的にも最高級とされるわさびをアメリカやヨーロッパに輸出しています。この結果それぞれの国でわさび文化が独自の進化を遂げ、私達日本人を驚かせる日も近いかもしれません。
筆者個人の意見ですが、アメリカ旅行に来た日本人には、現地の寿司を食べることを勧めています。「わざわざアメリカにまで来て寿司」と思われるかもしれませんが、さび抜きが基本というだけなく、見た目や具材など日本人が持っている寿司のイメージを覆すラインナップは、食材や料理がこうあるべき、という固定概念を壊してくれるからです。日本で親しまれている元の形にこだわりすぎず、その地の文化や好みに合わせて自由に変わっていくことこそが、世界進出の第一歩なのだと教えてくれているのです。