こもだる作りの老舗「岸本吉二商店」(兵庫県尼崎市)4代目社長・岸本敏裕さんへのインタビュー。後編では、岸本さんが入社した1988年以降右肩下がりだった売り上げを回復させたさまざまな取り組みを教えていただきました。
Q・事業展開で大切にされていることは?
A・「途絶えないように、続けていくこと」
私は大学を卒業後、ニッカウヰスキー(東京)の大阪支社で営業職を経験し、1988年(年齢は27歳)に入社しました。職人仕事や営業など一通り全ての業務を経験。こもを樽に巻く職人技の難しさは忘れられないですね。
また、95年に阪神・淡路大震災を経験。その後も後継者不足や、替えの効かない機械の故障をきっかけに多くの会社がやめられる様子を目の当たりにしてきました。現在こもだるのメーカーは弊社を含む3社しか残っていません。
当社は日本全国にある400の酒蔵からオーダーを受け、国内シェアの50%以上を締める最大手です。「江戸期から続く日本文化を途絶えないように、残していかなくてはならない」。この思いを常に持ち、尽力する日々です。
Q・ロングセラーの商品が世界から注目を浴びています
A・手のひらサイズが好評!用途広がる「ミニ菰樽」
こもだるを後世に残すには用途を広げ、年齢や国境を超えた多くの人に知ってもらうことが大切です。1980年ごろに発売した手の平サイズ(300mlサイズ)の「ミニ菰樽」は、国内外の方々から喜んでもらえる土産やイベントのノベルティ、プレゼント需要で話題になり、2006年に国土交通省主催の世界に通用する土産品を選ぶ「魅力あるおみやげコンテスト」の食品部門で、金賞に選ばれました。酒以外のドリンクやお菓子、雑貨などさまざまなものを入れて使えます。デザイナーとのコラボレーション商品も作ってバリエーションを増やし、今でもロングセラーし続けています。
また、蓋の鏡板をマグネット式にし、繰り返し使える「ミニ鏡開きセット(720mlサイズ)」は自宅での祝い事や結婚披露宴でのキャンドルサービス代わりに喜ばれています。木槌で蓋を叩くとクラッカーが飛び散る「Donpa!(ドンパ)」も「華やかでインスタ映えする」と好評です。一般の方はもちろん、イベント会社や結婚式場からの注文も年々増え、私が入社した1988年以降右肩下がりだった売り上げは、2015年を境に現在も右肩上がりで伸びています。
Q・若手職人の育成、海外展開にも注力されています
A・伝統を守りつつ進化 挑戦し続ける日々
弊社の社員は30人中6人が20代で、日々、技術や歴史を継承しています。「伝統を守りながら進化を模索する」という仕事に共感してくれる若者が多いことを嬉しく思います。
海外を意識し始めたのは、ネットが普及し始めた2010年ごろからです。海外からの問い合わせが徐々に増え、「現地に行って、反応を体感してみたい」という思いが募りました。そして13年、米ニューヨークで開催される見本市「NY NOW」に参加し、世界のバイヤーに商品を披露しました。翌年には中小企業庁の「JAPANブランド育成支援事業」に選ばれ、こもだるをテーブルや椅子にリノベーションするインテリアプロジェクトをスタート。完成した商品を持って、16年に再度渡米し、NY で日本文化を発信するギャラリースペース「RESOBOX」で現地のバイヤーやメディアを招いたお披露目会を含む3週間の展示会も開催しました。日本の商材を海外でヒットさせる道のりは長いですが、挑戦し続けたいです。
Q・海外ではどのように使われていますか?
A・インテリアやアート 日本文化を発信するツール
内装やインテリア関連の需要が伸びています。最近の事例は、米ヒューストンのジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル国際空港の装飾(=本記事の一番上・メイン写真)や、ミラノ万博のモニュメントで使っていただきました。私の想像を超えるアートとして、海外で日本文化を発信するツールになっていることを誇りに思います。
Q・日本の読者に伝えたいことは?
A・杉の香りがふわり 樽酒をぜひ味わってみて
新商品の開発も大切ですが、まずは残していける環境を整えなくてはいけません。伝統を途切れさせないために何ができるのか。模索する日々です。
日本の方には、いろいろな日本酒を飲んでいただき、味はもちろん、歴史も含めた魅力を再認識してもらえたら嬉しいです。最近は少なくなってきましたが、樽酒をぜひ味わってもらいたい。杉の香りがふわっとして、風味が豊か。とても美味しいですよ。
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●「株式会社RESOBOX」は、日本文化の持続と発展を経営理念の一つに掲げております。世界の様々な文化が集う米国NYで、日本と他国の文化が融合し、現代の日常に溶け込む逸品へと進化させ、世界へと広げるお手伝いができたら幸いです。また、日米の企業を繋ぐことで、販路の開拓や拡大を支援する「海外進出支援サービス」も実施しております。コロナ禍でも、海外展開を継続していただけるよう、リモートで代行営業を実施する「NY代行サービス」も以前より拡大しております。詳しくははHPをご覧ください。問い合わせはこちらのコンタクトフォームから。