愛知県食品輸出研究会の会長を務める平松さんが、海外進出を行った際に食文化の差という壁をどう乗り越えたのかここまでご紹介しました。シェフコラボという方法で現地の顧客との距離を縮めた平松さんが得た、貴重な気づきとは何だったのでしょうか?
アメリカシェフが考案した佃煮の使い方に驚愕
佃煮をアメリカのシェフに渡し、オリジナルメニュー考案を依頼したうえで展示会に臨んでいるという平松さん。日本の料理人との違いを感じたのは、食材の使い方だったといいます。「日本では同じことを依頼すると、多くのシェフは佃煮の形を残してメニューを考えようとする。そう染みついているんでしょうね。でもある時アメリカで北欧料理レストランを提供しているシェフに佃煮を渡したところ、目の前で切り刻んだんです。味が良いからテイストを残そうと言って。これは驚きました」この他、アユの甘露煮を持っていったときには頭と尾を落として半分に開かれ、サラダにトッピングされたことも。想定外の使われ方ではあったものの、これこそが食文化の違いだと痛感したそうです。
日本人の価値観がそのまま世界で受け入れられるわけではない
平松さんは、日本での食べ方にこだわらず、現地の食文化に合わせて柔軟に提案を変化させていくことが大切だと強調します。実際に研究会でも、これから世界を目指す企業に向けてこのメッセージを発信しているそうです。「例えば唐辛子の辛さ。アジア人は好きだけど、欧米人はそこまで好きじゃないのではと思っている。しょうがやワサビの辛味が好まれる地域があったり、趣向が異なる。それを実感するためには、現地のシェフに作ってもらうのが一番なんです」 シェフコラボを依頼するため、当初は自力で10社以上のレストランにコンタクトをとったといいます。その後は現地エージェントに依頼し、そのネットワークを活用しながら、この活動を続けています。
成功のコツは、使い方のヒントを伝えること
シェフに食材を自由に使ってもらうと言っても、ある程度事前説明が必要な場合もあります。愛知県食品輸出研究会の三河白醤油メーカー・日東醸造株式会社が海外進出時に同様の取り組みを行ったときのことです。シェフは黒い醤油は親しみがありましたが、白い醤油を扱うのは皆初めて。料理に入れても色が黒くならないので、最初は適正量を越えてどんどん入れてしまったのだそう。当然これでは味が濃すぎます。そこで最初にメーカーが適切な使用量や調味料の目的を、デモンストレーションを通じて説明。食材への理解とシェフのオリジナルアイデアが掛け合わされ、新しい価値が生まれ、それが現地の食文化への入口となりました。先入観が無いからこそ、シェフの食材への理解がコラボレーションには不可欠なのです。
このように試行錯誤を繰り返しながら、現地の食文化に入り込むべく道を切り開いてきた平松さん。しかし一方で気になるのはコスト面。展示会に出品するにも、現地のエージェントに協力を依頼するにも、決して少なくない費用の工面は不可欠です。これに平松さんがどう対処したか、次回お伝えいたします。