The Wall Street Journalの7月13日付けの記事「June Consumer Prices Likely Rose Sharply Again as Economy Rebounded」によると、米国ではコロナ後の経済の急回復を受け今月7月も引き続き物価の上昇は続き、Consumer-price index(算出方法は異なるが日本の消費者物価指数に相当)は対前年同期比5%の上昇となるとのこと。
NYに住んでいて日々感じますが、既に衣料品、食料、車など多くの物の値段が上昇しており、特に人気の観光地におけるレクリエーション(ホテルなど)はコロナ疲れから解放された人々によって予約が取れない状態が続いています。
値段が上昇している要因として需給バランスが崩れているという点が挙げられますが、第20回のポッドキャストでも触れたように、食料品から半導体、コモディティまで様々なものが数ヶ月に渡り不足した状況が続いており、またNYに店舗がある弊社でも実感していますが、トラックドライバーの不足が深刻でありサプライチェーンが機能しておらず、他州からの物がなかなか期日通り届きません。
その中でも一層の落ち込みを見せているのがアルミニウム。
アルミニウムはプラスチックや鉄、ガラスと比べ、軽く、冷えやすく、また光を通さないなど多くの利点があり様々な用途で使われる素材ですが、まず消費者に一番近いものとして飲料品のコンテイナーとしての利用が挙げられます。こちらは近年、既にコロナ前から需要が伸びており、2010年には50%ほどのビールが缶製品でしたが2020年には67%にまで増加、今や実に米国のビールの2/3は缶で売られているということになります。
また、コロナ禍でバーが閉じ、ケグから缶への移行が進み、さらにハードセルツァーやクラフトビールの人気が若年層を中心に爆発的に増えた上に、今年4, 5月からの経済の回復が需要増に火をつける形となり、製造メーカーは好景気かと思いきや、前述の通りアルミニウム自体が不足しており、生産もままならない状況となっています。
金属製飲料ボトル製造大手であるBall CorporationのPresidentであるDaniel Fisher氏は、この事態はしばらく続き、2023年までは需要が供給を上回るだろうとの見解を述べています。
大手飲料メーカーはたとえ仕入れ値が高くとも米国内ではなく海外から輸入することで対応することも可能ではありますが、小・中規模メーカーはそうはいかないでしょう。また、たとえ原材料を確保できたとしても、人件費や輸送費も通常時の1.2~1.7倍に高騰しており、なかなか利益を上げづらい、結果、販売価格へと転嫁せざるを得ないのですが、当然競争力に影響が出てくるため悩ましいところ。
また今年は米国は歴史的な酷暑ということもあり、飲料系商品の需要が例年以上に伸びることも予想されており、問題はより深刻になりそうです。
ヒューストンのクラフトビールメーカーであるSaint Arnold Brewingでは、通常は2週間である、缶の発注から到着までのリードタイムが今や14週間と大幅に延びてしまっている状況に対処するため、自らレーベル印刷機を購入し、無地の銀色の缶に添付することで、印刷会社に依頼する時間を節約しているとのこと。
これは一見、増大するアルミ缶の仕入れコストを抑えることに繋がると思われがちですが、通常業務ではないため対応設備がなく添付作業など手作業で行わざるを得ないため「数千缶と数万缶では作業量が全く違う、とても手がかかる作業だ」とのことで、結果的にコスト増となってしまっているかもしれませんが、少なくとも市場に商品を出すことはできているので、売るものがないよりはましだとのこと。
無数の製品に使われているアルミニウムですが、酷暑を前にしてエアコンの生産にも影響が出ています。こちらも同様に、輸送ドライバーが足りず国内に届いたパーツが港に残されたままになっていたり、3月に起きたスエズ運河の封鎖事故も少なからず関係しているようです。結果、今夏に故障する事態を想定し早めに二台目を購入する人が増えてきており、また、扇風機や除湿機などエアコンの代替となる商品の売り上げも伸びているとのこと。
その他の商品としては、バルコニーや庭に置く家具(Patio furniture)の供給が足りないため消費者はオンラインで質の低い(かつ注文から到着まで数ヶ月かかる)中国製品を買わざるを得なかったり、アリゾナ州やノースカロライナ州では、自動車のナンバープレートが作れないため交換プログラムを延期したり変更したりといった対応に迫られているとのこと。
昨年から続いているこのアルミニウムの不足問題、当時は「数ヶ月後には元に戻るから」という論調がほとんどでしたが、状況は悪化していくばかり。既に多くの企業は既に手を打ち尽くしたというところで、アルミニウムにこだわることなく代替素材に目を向けてはいるが、なかなか難しいようです。このような事態も踏まえトランプ政権時に設定された多くの(報復)関税も少しずつ撤廃の方向に向かってはいますので、長期的なインフレになることは予想されているとはいえ、その上昇率が緩やかなものであることを願うばかりです。