NYの飲食店経営者が米国デリバリーアプリについて語ります・後編

米国の「デリバリーアプリ」

NYで文化スペースと共にレストランを経営し、自ら数多くのアプリを日々使い過去に数万件のデリバリーオーダーを捌いて来た僕が自らの経験を基に同アプリの将来について独自の見解を語っていきます。

今日取り上げるトピックは、ポッドキャストでも語っています。併せて聞いてもらえたら嬉しいです。

米国のデリバリーアプリの鍵を握るのはあのファンド⁈

米国の「デリバリーアプリ」トップ5を紹介した前編の記事でもお話したように、数多くのデリバリーアプリが存在する米国では、アプリ同士での買収が進んでいます。業界第一位のDoordashがCaviarを飲み込み、第二位のUber EatsがPostmateを手に入れ、第三位のGrubhubは外資であるJust Eat Takeawayと合併することで生き残りを掛ける三つ巴の様相となってきました。

ここでポイントになるのが、ソフトバンクが各分野をリードする成長企業へ投資する「SoftBank Vision Fund」。

2018年、当時米国のデリバリーアプリ市場で4位の負け組であったDoordashは、SoftBank Vision Fundから計6億8000万ドルもの投資を受け、一気にライバルを蹴落とし、20年12月にはIPO(株式公開)にまでこぎつけました。

上場時の同ファンドの含み益は110億ドルに達し、ワクチンの登場で一旦大幅下落するも、COVID-19の第三波到来、かつ大統領選挙後の政情不安のため、直近は再び急上昇となっています。

SoftBankさすがです。WeWorkの件で心配していましたが、すぐに子会社だった米携帯大手Sprintを売り、このような莫大なリターンを得るIPOをやってのけました。

しかもさらに面白いところは、このVision Fundは米国デリバリーアプリ一位のDoordashに多額の出資をするだけでなく、二位のUberの筆頭株主。挙げ句の果てには昨年そのUberが三位のGrubhubを買収しようとしていたという…(ちなみに独禁法に抵触する可能性が出てきたため断念しました)。

米国のテイクアウト業界を牛耳っているのは間違いなくこのVision Fundであり、各業界のトップ企業数社に莫大な投資をしてライバルを引き離していく戦略、まさにここにありです。

コロナの収束とともに右肩下がりに…。デリバリーアプリに未来はない?! 

ただ、未来はそこまで明るくはないんじゃないかと思ったりもします。
このフードデリバリーは、各社パンデミックの巣ごもり需要で一気に大きくなりましたが、収益性が非常に悪く、競争が非常に激しいことは事実。

やはり「デリバリー」である以上、実際にレストランで食べる食事の質にはどうしても敵わないケースが多いです。パンデミックが終了したら、皆がまたレストランへ出掛けるのは明白なので、需要は当然落ると予想でき、Doordashが参入したように日用品など配達物の種類を増やしていかないと今の売り上げがキープできるとは思えません。

問題点は提供する商品に差がないこと

一番の問題は、どのアプリも同じ商品を扱っているということ。一つのアプリに登録したら他社のサービスに登録できないといった契約を求めるアプリはないため、例えばうちのレストランの場合、Doordash、Uber Eats、Grubhub、Caviar、Postmates、Hungry Panda、Delivery.com、 Spread、 Sharebite、 Chownow、 Allsetなど複数のアプリに「全く同じメニューを同じ値段で」載せています。

そのため消費者としては「どのアプリを使っても一緒でしょ?」となり、使い慣れた数個のアプリさえあれば、他を使う理由がないんですよね。

唯一、浮気をするならば、各社が独自に実施する送料無料や初回割引などのキャンペーン時くらい。ただ、キャンペーンが終わると、使い慣れたアプリに戻るのが普通ですよね。また、基本的に同じ商品を並べているだけなのでUI/UX(デザインや使い勝手などユーザー体験のメリットなど)もそこまで大きくは変わらず。もう好みの問題でしょうか…。

そんな競争に打ち勝つべく、各社広告に莫大な費用を投じています

例えば Google で、「Doordash+レストラン名」で調べると、Doordashで探したにも関わらず、検索順位の1〜3番目にはUber Eatsが表示されたりするってご存知ですか? これは広告を Google に払ったところが一番上にくる仕組みになっているからです。

なので、お客さんが「Doordash+RESOBOX」と入力しても、上には「Uber Eats」のページが来たりする。そのままクリックしちゃったりしてUber Eatsでの注文になったりします。

各社一番になりたいから Google に莫大な広告費を投じる。その予算のせいで経営が圧迫されるという悪循環をずっと繰り返しているのが現状です。これは、どうしようもない競争であり、誰も得をせず(Google以外…ですが)各社赤字が増える。これでは先がなかなか見えないですよね。

他社と差別化する鍵は、“配達の質&顧客対応”

今や多くのレストランが多数のアプリに登録済みなので、店舗数を増やすのは限界があります。そこで基本に立ち返ると、詰まるところフードアプリ=配達業という結論に達します。よって、ライバルに勝つには「配達の質」と「顧客対応(主にカスターマーセンター)の質」を上げるしかありません。

配達の質とは、具体的に、①ドライバーの教育と、② 配達のスピードです。

最近は減ってきましたが、昔はドライバーとの揉め事は多く、配達すべき食事を盗んで食べてしまうドライバーもいるほどでした。。。

また配達のスピードを上げることがお客さんの満足度に直結するため、デリバリーアプリとは別に専任ドライバーを抱え込み、配達のみを専門に行うサービスを提供するRelayも登場しました(オンエアではこれらの新サービスや、ドライバーとトラブった驚きのエピソードもお話ししています)。

ちなみに弊社は配達サービスをGrubhub所属のドライバーから、Relayが提供するドライバーに変更してから(注文はGrubhubのアプリで取るが、その後の配達はRelayのドライバーを使用する)お客様からの評価がグッと上がりました。

ギグエコノミーに問題視 新たな解決策はドローンや自動運転⁈

ここで問題となっているのが、デリバリーアプリのドライバーのように、ネットなどを通して単発の仕事をするギグエコノミーと呼ばれる働き方をしている方々を従業員として扱うか扱わないかということです。

もし扱うならば、保険など各種補助が提供されなければならないですし、そうなると登録レストランから受け取る手数料を上げなくてはいけない。このギグエコノミーを含め、配達業界の「ラストワンマイル(物流拠点と消費者を結ぶ最後の区間)」における様々な課題があります。

どうしようもないのでは?と思われた方も多いはず。しかしアメリカでは、ドローンや自動運転が解決してくれるかも?という動きが登場しはじめています。

事例をご紹介
以下の記事・動画のように、物流大手のUPSが、5Gネットワークの普及を急ピッチで進めているVerizonと組み、ドローン配達を開始しています。これはあくまで一例に過ぎず、全米各地で様々な技術が実用化され始めて来ています。
記事
動画

例えばCOVID-19に感染する危険があるため近くの薬局にさえ行けない高齢者のため、ドローンで薬を定期的に配達するという技術。素晴らしいですね。

改善しなくていいの?とツッコミたくなるカスタマーセンターの顧客対応

顧客対応に関しては、配達時にトラブルが起きた時のカスタマーセンターの返金対応がいかにマニュアル化されていて、それが新たな問題を引き起こしていることです。

またそれはなぜ?? アメリカでビジネスを展開したい!という方はぜひポッドキャストをご視聴ください。返品率の高さと並ぶくらい特徴的なことなので、参考になると思います。

デリバリーには様々なトラブルがつきもの!

オンエアでは話しておりませんが、配達した証拠まで残ってるのに「配達が来ていないのでキャンセルする」と強弁し、何度もただ食いをする(しかし毎回登録メールアドレスを変える用意周到さ)客がいたりと、まぁ僕も過去に何度もアプリやドライバーと大喧嘩をしています(最近はもう諦めていますが。。。笑)

デリバリーアプリというと「フードの配達」が注目されがちですが、これらのアプリの未来は、日用品などありとあらゆるものを消費者の所までいかに早く運ぶかということが最終目標なのかと思います。

DoordashがPostmatesやInstacartが得意とするこの領域に昨年踏み込んだことで、新たな競争が生まれることになりそうです。いずれ、郵便配達やガソリンなどもタップ一つで配達される未来が来るのかもしれません(人間の運動不足がさらに加速しそうです…)

ちなみにこの放送の収録日は1月4日だったのですが、放送の最後に僕が「Doordashが日本に参入するかもしれない」と言っていたことが、以下の1月8日の日経新聞の記事の通り、なんと現実になりそうであまりのタイムリーさに自分でも驚いています(笑)

ドアダッシュ、日本進出検討 宅配需要開拓へ採用活動 
同業界に知り合いはおりませんので、本当にたまたま予想が当たったまでです。

余談ですが…

デリバリーアプリから少し脱線しますが、レストランとお客さんをつなぐフード系アプリの中でアメリカらしい(少し西海岸っぽいですが)ものがあったので一つ紹介しますね。

廃棄物の処理っていうのは大都市ではどこでも重要な課題。NYCでは家庭から出る廃棄物の次に問題になっているのが飲食店から出る廃棄物であり、これら食品ロスを減らすというミッションを掲げたアプリで「Food for All(フードフォーオール)」といい、レストランの売れ残りメニューを閉店前に同アプリを通して登録者に告知することで、お客さんは割引価格で購入ができ、店舗側も売れ残りを減らすことができるというサービス。面白いですよね。日本に同じようなものはあるのかなぁ。


[今日読んだ本]

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