日本の〝Bento〟を米国へ


ニューヨークでは、教育機関やエンタメ系の施設などが、様々な問題を抱えながらも、通常に近い状態で概ね再開。弊社も、自社店舗の再開に加え、日本の産品のプロモーションの新規依頼を次々と受けています。

中でも、ニューヨークでのレストランの開店や、農産物のプロモーション等の食に関する案件が増えいます。そこで、現地ニューヨーク並びに米国東海岸での食のビジネスについてご関心のある皆様に、少しでも多くの最新情報を得ていただけるよう、米国で弁当事業を展開されているBentOn(べんと・おん)代表・古川徹さんとポッドキャスト番組で対談しました。この記事では当日の内容をコンパクトにまとめ、前後編に分けて紹介しております。ポッドキャストでも全編聞いていただけますので、下記リンクよりぜひご視聴ください。
また、コロナ禍の米国ビジネス関連記事も参考にしていただけますと幸いです。
コロナ禍におけるアメリカ国内のモノ不足問題
海産物に対する消費者の意識に変化。対応を迫られる米国企業

 〝sushi〟〝sake〟に続き、英単語として定着した〝Bento〟

さて、今やアメリカでは英単語の一つとして定着した「Bento」。アメリカにおける日本の弁当文化の火付け役となったと言っても過言ではない「BentOn」は、メニュー開発から製造販売配送まで全て自社で一貫して行っている弁当メーカーです。
ニューヨーク市内に自社工場を持ち、レストランも運営。また全米オープンなど世界的な大規模イベントにも商品を提供。直近は全米初の弁当ミールキット販売をスタートするなど、ニューヨークを中心に米国東海岸に広く事業を展開されています。

Benton外観
店舗の外観

パンデミックで打撃 新たに立ち上げたミールキット事業に注力

古川:私は、東京葛飾区の下町で10年ぐらい今続いてる弁当屋の次男として育ちました。2006年からはニューヨークでBentOnを設立。業務内容はお弁当の製造販売で、主にマンハッタンのビジネスマンに向けた日替わり弁当の配達、パーティーやイベント等への仕出し、直営店である弁当カフェの運営です。
しかし、主な顧客が企業で働くビジネスマンだったため、2年前からパンデミックの打撃を受け、イベントケータリングなども縮小することになりました。そこで、2020年から、新事業として一般家庭向けに時短で料理が完成する和食のミールキット事業「BentOn Kit」に力を注いでいます。

ミールキット
自宅で簡単においしい和食が味わえるミールキット
ぶりの照り焼きがメインのセット
ぶりの照り焼きがメインのセット

池澤:コロナで大打撃を受けたとのことですが、オフィス街に店舗をお持ちの御社としては、売上はまだまだ見通しが立っていない状況でしょうか。

古川:ファイナンシャル・ディストリクト(マンハッタン)にある一番大きい店舗は、お客さんのほとんどが非日本人のビジネスマンでした。2020年3月にロックダウンした後、金融街では在宅ワークが長引くだろうと予測される点、この環境下で日本人以外が弁当を購入する期待が持てない点から、5月には営業を停止する決断をしました。

また、ミッドタウンの2店舗のうち、客層がほぼ100%非日本人のUrban Space (アーバンスペース)のフードコート内の店舗も、未だ閉店中。ただ、ミッドタウンイーストの45丁目の店舗は日系企業の日本人のお客様が多く、販売数は少しずつ回復しているため、現在は半日営業をしています。弊社の過去の売り上げは、7割が非日本人のお客様で、パンデミック後の現在も、そのグループの売り上げは8割減のまま。日系企業のお客様は、5割程度戻ってきています。

池澤:非日本人の顧客がなかなか戻ってこない理由とはなんでしょうか?

古川:まずは、非日本人のビジネスマンが、パンデミックが始まった当初からリモートワークに切り替えた層が大きかったということがあります。また、仮にハイブリッドでオフィスに週2、3回勤務するとしても、その昼食のうち日本の弁当を選択してもらうのはハードルが高いです。日本人であれば、平日週3日の昼食全てを利用してもらえる可能性もありますが、非日本人の方にとって、5回の昼食のうち1度でも食べてもらえればよいという期待値ですね。

アメリカ人が好む味覚とは? 

池澤:私も、レストラン業務の中で日本人とアメリカ人の「味覚の違い」について、ある程度の傾向が見受けられることが多々ありました。この点については、古川さんも弁当作りの中で、多種多様な人種の好みに対し、日本食というカテゴリーの中で差別化を図るために模索されてきたと思います。味覚の傾向が顕著に見えることはあるのでしょうか?

古川:開店当初は日本人向けの弁当を販売していたので、日本の弁当をそのまま出せば喜ばれており、味覚やプレゼンテーションに特別な工夫をする必要はあまりなかったのですが、2010年ごろから、現地のアメリカ人にターゲットをシフトをしたので、試行錯誤の必要が出てきました。確かに、日本人に比べ、辛さや甘さを強く好む傾向はありますが、彼らの味覚に関しては、基本的には日本人と共通している部分も多いという印象でした。

ある日の日替わり弁当。和の食材がふんだんに使われています

池澤:出汁は使われていますか? 近年、「旨味」というコンセプトが、シェフのみならず一般の方にも浸透してきました。例えば、昆布や椎茸から取った日本の出汁がいかに汎用性があり、一般のアメリカ人の方々にも理解可能かという点に関し、弁当販売を通して感じた点はありますか?

古川:「旨味」に関しては、舌よりも鼻から感じるところが大きいと思うのですが、その点で言うと、熱いものを熱々で出せない弁当では難しい分野になります。ですので、「旨味」というよりは、“色んな食材が一つの箱に詰まっている良さ”を伝えています。

ネギやシソ、ミョウガなどの薬味が徐々に浸透

池澤:弁当作りの中で、アメリカ人が好む味付けを常に研究されていると思います。欧米では一般のスーパーでも香辛料の種類が豊富で、味付けの面で香辛料が欠かせませんよね。日本では一般家庭に肉食が根付いたのが遅かったこともあり、香辛料を主体とした食文化との違いは大きいですよね。

古川:香辛料に関して言うと、ネギやシソ、ショウガやミョウガ、梅、柚子等の日本の薬味は、アメリカ人にも受け入れられてきている印象があります。出汁よりも舌で分かりやすいテイストという面もあるからでしょうか、アクセントとして食材にのせると喜ばれます。

厨房で丁寧に惣菜を詰めるスタッフ
厨房で丁寧に惣菜を詰めるスタッフ

成功の秘訣は弁当の温度管理

池澤:出来立てを食べないという前提で提供する弁当の特殊性があると思いますが、いつ食べられるか分からないリスクを可能な限り平準化して提供することに関して、どういう工夫をされてるのでしょうか。

古川:作ってから食べるまでの時間を逆算して作ってるので、出来立てとは違う美味しさを提供できます。ここでキーになるのが、温度。温度をどのような状態で出すかで、食べるときの味が変わるので、温度に関しては特にこだわっています。
例えば、熱々の状態で蓋をして持ち帰って頂いた場合、美味しさというのは時間と比例して確実に下降していきます。それに対し、ある一定の温度まで下げてから持ち帰っていただいた場合は、美味しさもほぼ横ばい状態でキープされます。その点では日本の駅弁と同じですね。

池澤:日本では、駅弁や弁当文化が古くから根付いているので、弁当がいかなるものかという理解の上で食されますが、そういう文化があまりなく、弁当の特殊性への理解が浸透していないアメリカ人の方から、ネガティブな反応があったことはありますか?

古川:はい、あります。2009年に、日本人向けからアメリカ人向けにターゲットを変更したとき、アメリカ人のお客様から最初に挙げられた問題が、商品が常温であること。例えば「サラダは冷たく、サーモンは温かくあってほしい」という要望は、日本人のお客様からは出ないものでした。
そこでとった解決策が、弁当を店内ですぐに食べてもらうか、あるいは、オフィスに持ち帰って15分以内に食してもらうことを前提にすることでした。弁当文化自体が新しい方々に、更に温度に関する異文化を押し付けることは難しいと感じたからです。そこで、冷たいものは冷たく、温かいものは温かく提供し、できるだけ早めに召し上がっていただくことを前提に提供しています。

健康意識高い米国人に「ウェルバランス」を提案

池澤:弁当という食の提供方法には、一つの箱という空間に色々なものを入れ込む美しさという要素がありますよね。見た目のみならず、健康面で、様々な栄養素がそのスペースの中で調和しているという点も、アメリカ人にアピールする要素としてありましたか?

古川:特にファイナンス関係の方は、健康に関する意識が高い人も多いので、栄養素を前に出したプロモーションはしました。「限られた空間の中にいろんな栄養素が組まれた種類の食材が入っていて、あなたが必要としている栄養を美味しく摂ることができる」というような感じです。
ただ、アメリカ人の「健康意識」は、オーガニックやベジタリアンであることにフォーカスされがちな面もあり、我々がそれに挑んでも現地のオーガニック製品にこだわっているところには勝てないし、弁当をベジタリアンにするのも困難。ということで、別の観点から「健康」で売ることを考えました。
日本は長寿で健康というイメージが強いですが、その中で、果たして僕らが昔からオーガニックにこだわっていたのだろうかとか、昔からベジタリアンだったのだろうかということを改めて考えたとき、「ウェルバランス」で、色々なものをバランスよく取ることこそが「本当の健康」ではないかと考え、その観点での「健康」を提供しようと考えました。

BentOnの店内には、栄養バランスがとれたお弁当がずらりと並びます

池澤:それは凄く納得できます。アメリカ人の方と食に関する話をすると、「健康」というキーワードの枠からあまり外に出ない気がします。私も米国でさまざまな食材のプロモーションする中で、その彼らの言う「健康」の中でも特に「栄養素」「安全」という言葉が食の評価で大きな割合を占めており、ざっくりと言うと、良い栄養素が含まれており、安全に作られていれば、それで満足と考えている方が多い気がします。とは言っても、食の文化的な面との繋がりや、五感に訴える要素、例えば我々日本人だったら味噌汁だったら家族愛のようなものをどこかに感じるとか、そういうコンテクストはおそらくアメリカ人も我々と異なる形ではありますが持っているはずだと思うのですが、見つけることが難しい。結果、食材のプロモーションにおいて、あと一歩、相手を惹きつける何かを見つけられず今でも模索し続けているのですが、この辺りについて、古川さんはいかがお考えでしょうか。

「言語」より困難な「食」の浸透 新たなアプローチ方法は「アニメ」

古川:16年間ずっと、弁当をアメリカ人にどう売れば届くのかを考えていますが、新しい食を受け入れることは、新しい言語を入れることの次くらいに難しいことだと思います。なので、知識として色々な日本の良さを伝えるよりも、子供たちに提供すれば、いずれ何十年後かに良いものとして残ってくれるのではないかと、アメリカの子供たちに弁当を提供する試みをしたこともあります。それと同時に、他の文化から弁当というものが入ってきてくれるのを待っていました。アメリカのように、食べ物のバラエティーに溢れている場所で、あえて新たな食を取り入れてもらうには、食べ物とは別の文化的な影響力が必要かと。そこで最も顕著に影響を与えてくれたのが、アニメでした。自分の好きなアニメのキャラクターが例えば弁当を持っていたとか、日本の宮崎駿のアニメでお弁当が出たとかっていう、その部分で彼らはまず食べてみたいとかあの風呂敷で食べてみたいとか、そういうことですね。
将来的に、アメリカのスーパースターが弁当を食べるとか、アカデミー賞の現場で弁当を利用してもらうとか、そういう機会があればこの点において大きなチャンスになるのではと期待を持っています。

Bentonアニメフェス
BentOnがアニメフェスに出店された時の様子

池澤:私も(NYで毎年開催される)アニメフェスにブースを出すのですが、ナルトで登場するおにぎりの影響でしょうか、「おにぎりがあるのか」とよく聞かれます。あとは、キャラ弁ですね。弁当とキャラクターの融合という事になりますが、将来、キャラ弁を事業として採用する可能性はありますでしょうか?

古川:現段階では具体的には考えていませんが、キャラ弁を含め、ファッション寄りの方向での売り方は考えていきたいところです。

池澤:BentOnさんが大事にされている点、例えば栄養面などを妥協することなく成り立つならば、ビジネスとしてやってみたいと?

古川:そうですね。当然ビジネスとして弁当を売って利益を出すっていう部分はありますが、それと同時に、弊社には弁当とは何かという事を伝えていくミッションもあるので、利益にならなくても、文化事業として進めていく方向性もあるかもしれません。そこが16年やってきた中で、大変な部分ではありますが、一番のやりがいでもあります。「弁当って何?」という、市場を作っていく部分から始めるビジネスは、元々競争相手がいて差別化を図っていく事業展開よりも難しい面がある分、やりがいはあります。

弁当を通した社会貢献


池澤:
将来を見据えて、若年層のお客さんにフィットする商品づくりに関しては既に試みられているようですが、私自身もその点には大いに関心を抱いており、どこかの企業さんといつか立ち上げてみたいプロジェクトではあります。アメリカの教育現場での大きな問題として、給食がありますよね。栄養面において長年問題視されているにも関わらず、コストと文化的な面でなかなか解決がなされていません。驚くべきことに、月々保育料が数千ドルかかるマンハッタンの富裕者層向け保育所であっても食事に関しては全く意識されていないというのが実情。そこにチャンスはないのかと思うのですが、いかがでしょうか。例えば、現場での調理や準備は不要だが、美味しくて栄養もしっかり摂れる弁当で、富裕層の子供向けに給食を提供していくなど…。

古川:確かに、その富裕層の子供たちが集まるところは私もチャンスがあると思ってます。実際に弊社がこれまで手掛けてきたのは、国連の小学校の春祭り。毎年500〜600程度の弁当を提供しています。様々な人種の子が集まる場で、どの人種の子が弁当を気に入ってくれるのかも面白いところ。実際最初に食べた方がもう20歳を過ぎて大人になって連絡をしてくれて、自分が彼らの弁当との最初の出会いを作れたということを知れると、すごく嬉しいです。こういうことがあると、文化的なビジネスは時間がかかるが、もう地道にやっていくしかないと思わされますね。
あとは2009年からやってるのは、Table for Twoという社会貢献団体と提携をして、アメリカだけでなく、世界の中の食事に困ってる子たちに食べ物を届けるという活動。世界規模で起きているこの食の不均衡を解消し、 開発途上国と先進国双方の人々の健康を同時に改善することを目的としています。

TABLE FOR TWOのイベントで店頭に立つ古川さん
TABLE FOR TWOのイベントで店頭に立つ古川さん

池澤:アメリカ人は料理をしないというイメージがあるかもしれませんが、あるデータでみると、大学卒の男性の料理する割合が2003年の38%から、16年には52%まで上昇、大卒の女性でも65%が69%まで上昇。全体的に見れば、近年、日々料理をするようになってきている傾向は見られるようです。
ただ、その中で、白人の女性と黒人の男性に関しては、料理をする比率が低いというデータが見られるので、その層に向け普段料理をする機会が少なくても、健康的で必要な栄養素の摂れる弁当をプロモーションしていくのも良いかと思います。
ただ、アメリカ所得者の中で肥満率が最も高いのは低所得者層ですし、彼らに国が食品のための補助金等を出しても、ジャンクフード等に費やしてしまい、結局健康を害したまま職に就けないなどの負のサイクルがあるわけです。そういう貧困層の方々に、弁当という媒体を通して、栄養の摂り方などの食育も含めた取り組みに個人的には関心を持っているのですが、古川さんはいかがでしょうか?

古川:そうですね、ビジネス的には、貧困層の方が拡散力がどうしても弱くなってしまうので難しい面はありますが、弁当という文化をアメリカへ向けて発信していきたいという文化的ミッションがありますので、その点ではビジネスを度外視した魅力はありますね。
例えば、ホームレスの方々がフリーフードを与えられる事に関しても、結局あれは誰のためにもなっていないのではないかという気もしますし、その点ではビジネスとしてよりも、文化的にどうにかしなければいけないという側面があります。

池澤:アメリカではほぼ確実に、企業活動に社会貢献的要素を入れていかないと、なかなかZ世代やミレニアル世代の心は掴みにくいという面はありますよね。そこも見据えてビジネスを展開されて行く中で、それによってブランド力も上がっていくでしょうし、また、単なる慈善事業というだけでなく、これがきちんとしたビジネスになっていくという道筋になりますね。

古川:実は、私はただで物をあげるのが好きではないのです。
なぜかというと、ものをただにすることによって、人はそれを粗末にしてしまうのです。ちょっと食べて捨ててしまったり、本当はいらないのにもらっていったり。だから、1ドルでもよいからお金を払っていただきたいし、逆に1ドル取るならいらないという方には届けたくない、という気持ちがあります。ですので、ドネーション活動はやらないというスタンスです。

池澤:全く同感です。私も、食材のプロモーションの依頼を受ける際、その食材を大量の方々に無料で配って試してもらいたいと渡されることがありますが、そのやり方はお断りしています。イベント等でも、誰彼に配ってフリーで食を試していただく方法よりも、少しでもお金を払って食していただいて、その上で意見を聞くようにしています。むしろその方が、より本音やしっかりした意見、改善案を引き出すことができますし、結果的にその方々を通して食材が広がっていく可能性を感じます。

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BentOn代表・古川徹さんとの対談は後編に続きます。