世界中の”あみぐるみ”4千点が集結した展示会をNYでプロデュースした話・後編

あみぐるみの歴史

「世界あみぐるみ展@NYC」の全容について語った前編に続き、世界あみぐるみ展@NYについてお話しします。

あみぐるみの論文の制作に際しフィンランド人作家と行ったあみぐるみのルーツを探る日本国内でのリサーチの話
同論文発表会のアドバイザーとしてフィンランドの大学より招致を受けバルト三国など東欧を巡った話
世界あみぐるみ展で僕が世界中の作家と共に達成してきたこと、探し求めていること、またそのためにチャレンジしていること
などについて書いていこうと思います。

ポッドキャストでは詳しい展示の内容や、僕の熱い思いなども語っているので是非ご視聴ください。

「あみぐるみ」をテーマに論文を書くフィンランドの作家と日本探訪

展示を始めてから数年後、第2回、第3回目の展示に参加しているフィンランドの作家・ジェニファーさん(Jennifer Ramirez)から、「実は大学であみぐるみの論文を書いています。発祥の地である日本へ行ってリサーチしたいのですが、何か伝がありませんか?」と相談を受けました。

実は、これまで「あみぐるみ」について、学術的な面から研究している人は、僕が知る限りではいらっしゃらなかったため、それを海外の方がされるのは面白いと感じ、さまざまな伝を紹介。僕自身もNYでの仕事をほっぽり投げ、日本へ。彼女と彼女の旦那さんに同行しあみぐるみリサーチの旅を決行しました。

東京では、多くの作家が所属し、定期的に展示会をされている「日本あみぐるみ協会」へ。名古屋では「日本であみぐるみを始めた方」といわれている岩月としさんを訪ねました。残念ながら岩月さんは89歳で亡くなられていたのですが、娘さんから作品についてや彼女がどのような思いで活動していたのかなど、当時のことをたくさん伺うことができました。この他に、現代の多くのあみぐるみプロ作家に多大な影響を与え、今でも第一線で活躍するタカモリ・トモコさん(World Amigurumi Exhibition Vol. 2 – 第二回世界あみぐるみ展にもご参加頂きました)を訪ねてインタビューを重ねたり、文献を見に行ったりしました。

エキスパートとしてアールト大学(フィンランド)へ 
御褒美旅として、バルト三国の作家たちにも会いに行きました

この旅で得た情報も含む論文は、2016年に完成。ジェニファーさんが、自身が所属しているフィンランドのアールト大学(Aalto UniversityのSchool of Arts, Design and Architecture)で発表することになりました。その際に、大学側から僕に

「招待するから発表の場にぜひ来てほしい。あみぐるみのエキスパートとしてジャッジしてくれ」

と連絡が入り、フィンランドへ行くことになりました。

飛行機代を同大学に出して頂ける以上、NY⇄フィンランドではもったいない(笑)と思い、NY→リトアニアと飛び、ラトビア、エストニアのバルト三国も旅行し、現地の作家たちに会うことにしました(あ、きちんとその旨大学には伝えて了承を得ています)。

2014年にこの「世界あみぐるみ展」を始めてから、世界約50カ国に住む300-400人のあみぐるみ作家と一人でやり取りをしてきたので、展示会が開かれていない冬以外の時期も、日々作家さんから「こんな作品作ったんだけどどう思う?」などのメッセージが届き皆様と仲良くさせて頂いているということもあり、僕が上記の国々を訪れるよと伝えると、「うちに泊まりに来て!」と、大歓迎してもらいました。

どの作家と会っても、「この新作見て!」「私の作品のコンセプトは〜」などなど話が大いに盛り上がるため、せっかくの観光の時間が無くなるという…(笑)。でも自分の企画をここまでのめり込んで楽しんでくださる方が世界中にいらっしゃるなんて、こんな幸せなことはないですね。

あみぐるみ作家さんって、ほんと、みんないい人ばかりで、各国で歓迎してもらい、交流を深めています。このあみぐるみの企画をはじめてから、世界中に多くの友人ができました。僕が経済産業省主催の日本文化イベントの仕事でメキシコシティに行った時も、現地にいる数名の作家さん達が駆けつけてきてくださり(わざわざ飛行機で来てくれた方も…)、あみぐるみとは関係のない僕の仕事まで手伝ってくれたりしました。もちろん、その後で延々とあみぐるみトークが繰り広げられるんですけどね(笑)。

いつか将来時間ができたら、彼らを訪ねて世界一周旅行ができたらなんて思っています。あみぐるみ作家の数が多い、スペインなどでいつか世界あみぐるみ展ができたらいいなと思ったりもしています。

奥深いあみぐるみの歴史と進化の過程

同旅行で東欧を訪れた時の話ですが、「Amigurumi」という名称ではありませんでしたが、似たコンセプトのかぎ編みのぬいぐるみを多くのお店で見かけました。

ジェニファーさんとも話し、同じ見解なのですが、日本が「あみぐるみ」を始めるずっと前から、この地域には同様のぬいぐるみが存在しており、日本人が近年になり「あみぐるみ」という言葉を与え体系化したのでは?と、考えています。(※これはあくまで推測。では、日本へどのような形で伝わってきたのか?という点についてはまだ調べる必要があります。ご存知の方いらっしゃったら是非教えて頂きたいです)

日本って内向的な国民性と思いきや、想像力が半端ない!

また同時に、形状に多様性を加えたのも日本人なのではないかなと思っています。

日本では八百万の神というように、石や水やその他多くのものに命を与え擬人化することで、それらを共存共栄するパートナーとして捉える面がありますよね。漫画でよく見られるように人間には存在しない身体的特徴をしたキャラクターが、我々と同様に友情を育んだり、恋愛をしたり、名誉のために闘ったり…。日本って島国であり、内向的な国民性があると言われているのにも関わらず、なぜこのような非国籍、無国籍でかつ多様なものを作り出してきたんでしょうかね…。(もちろん日本文化をベースにした作品も無数にありますので誤解なきよう)

僕はこのあみぐるみで作られた作品たちを通して、想像上の生き物は当然のこと、ドーナツに目や手が付いているものや足が数本生えているコーヒーカップなどなどにその日本文化の特徴の一端を感じ、こうして自社の展示会という形であみぐるみを取り上げることで、自分が事業を通して探し求めているもののヒントが掴めるかもしれないと思ったのです。

その日本が生み出す文化に面白みを感じているがゆえに、僕はNYにいて仕事をし続けることができるんですよね。

文化の異なる世界中の作家が作る「Amigurumi」って?
これを見るのが楽しくってしょうがない!

あみぐるみが日本の外に出て、異なる文化を持つ人々が「彼らなりの命の吹き込み方」で「Amigurumi」を作っていく…。それが「どんなものになるんだろう?」って気になりませんか? 僕は知りたくて知りたくてしょうがない。

ギャラリーに立って、お客さんの動向を観察している時にも様々な発見があります。

「母国の作家のものをあえて選んで買っていく人たち」や「民族衣装を着ている作品など、自国の文化が吹き込まれた商品に引き寄せられる人々」ももちろんいらっしゃいますが、

特に面白いのが、
「数千体の展示されたあみぐるみの中からお気に入りを選び購入時に初めてその作品が自分の国の出身作家が作った作品だと分かり、長年海外に住んでいるにも関わらず自身に根付いている文化的ルーツに気付く人たち。」

一人一人の作家が何十時間とかけて作った作品なだけに、その作家から滲み出る要素がどれだけ入り込んでいるのか、これで分かりますよね。

編む技術が高いものが優れた作品であることは間違いありませんが、人はそれを必ずしも求めていないのも面白いポイントです。ちょっとしたズレなど、技術的に劣っているものでも、それを超えたところにある温かみに引き寄せられ「側に置いておきたい!」とおっしゃって購入されたりします。

日本人がよく言う「可愛くない」作品も、それがイコール「魅力的でない」ということではありません。「他人が買うもの」「大きさや色が流行り」などは全く関係なく、本能が引き寄せられる作品を求める様子は、とても興味深いです。

「相性」という言葉でまとめると単純化し過ぎかと思いますが、まさにそういうことだと思います。

訪問客と作家、両方と触れ合う機会を持っている僕にとって「こういう人種の方は、これを求めている」といった「相性」を知る経験を積むことは、非常に勉強になるし、楽しくてたまらない時間でもあります。

更なる”可能性”を追求するべく、毎年異なるテーマ作品を設定

本展の特徴として、「テーマ」というものがあります。
同展示のプロデューサーである僕が毎年異なるテーマを定め、世界中の作家にはそのテーマに沿った作品を必ず一点展示作品に含めることを応募の条件としています。

例えば過去のテーマとしては、

「日常使いできるあみぐるみ」
「あなたの地元の文化を表現したあみぐるみ」
「自分の地元で取れる素材(毛糸に限らず)で作ったあみぐるみ」

などがありました。

素材をテーマにした時は、毛糸だけで作品を作るのではなく、木でアイテムをくっつけてみたり、ビーズを使ってみたり、針金で作ってみたり…と、素材一つとっても非常に面白く、あみぐるみの可能性を知ってもらう展示になりましたね。

もちろん各応募者の作品がどれだけ魅力的か、という「作品の質」はとても大事な審査基準になりますが、それ以上に、この「テーマ」をどれだけ正確に理解し、いかに「テーマ作品」に力を注いでいるかということを、その作家の普段の作品の質やSNSでの影響力、経歴以上に重要な審査基準としているので、

「上手なあみぐるみを作れるから」

展示に参加できるわけではなく、

「他の作家と共にあみぐるみを世界に広げるんだ」

という同展示会の主旨を理解している方を採用することにしています。

ですので、いかに素晴らしい高い質の作品を作る、SNSでフォロワーがとても多い方の応募であっても、その年の展示会のテーマを無視し、自分の作品の販売のことしか考えていないな、という意識が感じられる方はお断りをさせて頂いております。グループ展はチームワークです。同じ想いをもった各作家の作品が一箇所に集まることで初めて力を発揮しますので、当然ですよね。

毎年設定するテーマには、あみぐるみの拡張性やポテンシャルを引き出し、更なる”可能性”を追求するという目的があります。

例えば、日本人の作家さんが作られたテープメジャーのあみぐるみを見たときに、

「お、あみぐるみってこういう形にもなり得るな」

とヒントをもらい、次年度のテーマとして設定しました。

また別の会のテーマを決めた時のエピソードなのですが、

あみぐるみの素材は毛糸であることはかぎ編みアートである以上は当然ですが、毛糸ではない素材を加えている作品を見ていて、

「毛糸でないあみぐるみを作ったら、それはあみぐるみと言えるのだろうか」

とふと疑問に思い、これをその年のテーマに設定することで、毛糸でない作品で作られた「あみぐるみ」を世界中の作家に作ってもらい、無数のバリエーションを見ていくことで、

「お、確かに(毛糸でなくても)あみぐるみなんだな」となるのか、

「やはりこれは違うな、やっぱりあみぐるみにとって”毛糸”は重要な要素になり得る」と気づくのか。

このようなチャレンジを行うことで自分の設定した仮説の検証に繋がります。

僕の同展示会の役割は何度も言いますが、「あみぐるみを広げること」。

あみぐるみとはこんなこともできる?あんな可能性もあるのでは?など、少しでも魅力が広がる素質があるならば、それを「テーマ」として前面に押し出し、世界中のあみぐるみ作家にご協力頂くことで、

「それは本当にあみぐるみと言えるのか」

という問いに対する実験になります。

こんな僕のわがままに喜んで付いてきてくれる作家の皆さんには心から感謝しております。


第5回目のテーマは「あなたの国の絶滅危惧種」

4回目までのテーマは、「あみぐるみにはどのような可能性があるか」という“内向き”な観点で設定していたのですが、節目となる5回目は視点を180度変え、“外向き”、すなわち「あみぐるみを通しいかに社会にインパクトを与えることができるか」と考え、「あなたの国の絶滅危惧種」にしました。

具体的には国際自然保護連合(IUCN)が作成する「レッドリスト」に掲載された動植物の中から、自国の絶滅危惧種をあなたのオリジナリティを残した形で作ってくださいというもの。しかし、ただ該当する危惧種のコピーのぬいぐるみを作るのではなく、自身のあみぐるみ作家としての表現方法を存分に発揮した作品であることを各作家には求めました。

NYにさまざまな国の絶滅危惧種がかわいらしいあみぐるみとなって展示されることで、より多くの人々が環境や社会問題について改めて考えるきっかけになればと切に願っております。

実際、IUCNのワシントンDCオフィスの方々にアプローチしたところ、この展示会に非常に興味を持ってもらい、DCまで出張し一緒に何かやろうとお話が進んでいましたが、COVID-19の影響もあり、残念ながら実現は難しそうです。

RESOBOXが世界中の人たちを繋ぐ架け橋に

「世界あみぐるみ展」を開催する1番の理由は、あみぐるみという文化を世界に広げることです。

展示を通して作家とお客さんが、SNSなどを介して直接繋がったり、作家同士が国境を超えて刺激を受け合い、さらに良い作品を生み出すといういい循環が生まれることもこの上なく幸せなことです。RESOBOXが世界中の人たちを繋ぐ架け橋になれること、心から嬉しく思います。

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