世界中の”あみぐるみ”4千点が集結した展示会をNYでプロデュースした話・前編

世界あみぐるみ展@NYC

今回はNYCにある僕のギャラリーで2014年から毎年のように開催している「World Amigurumi Exhibition(世界あみぐるみ展)」についてお話しします。

この展示会は、僕が過去にプロデュースしてきた展示会の中でも1、2位を争うもの。現在開催中のVol.5も3月末まで開催中ですので、コロナ禍にNYまで来ることは難しいかもしれませんが、このブログを読み、ポッドキャストを聞いて頂きご興味を持って頂けたら嬉しいです。

NYで日本発祥のぬいぐるみが展示されているってご存知ですか?

「あみぐるみ」という言葉を初めて聞く人もいるのでは? 奥は深いのですが、端的にいうと、日本発祥の毛糸の編みもの作品のことです。後ほど詳しくお話ししますが、僕が運営するギャラリーでは2014年から毎年世界約45カ国のあみぐるみ作家にテーマ作品での応募を呼び掛け、審査で選出したアーティストの作品を、展示販売しています。前回開催した2019年は会期中に世界各地から延べ4,500人が会場を訪れ、大好評でした(2020年はコロナの影響で、前年の作品をそのまま展示しています)。

改めてRESOBOXとは、NYから世界に向けて日本文化を発信する会社です

僕はRESOBOXという会社を2011年に立ち上げ、現在、NY市内に二拠点を構えています。店舗は、日本の文化を広げる「ギャラリー」や「文化教室」「レストラン」として運営。ギャラリーでは、日本の文化を表現するアートの展示を月替わりで実施しています。内容は油絵や水彩画はもちろんのこと、折り紙アートや職人技が光るけん玉など工芸品、酒の試飲も併せてその場でできる「日本酒の瓶・ラベルや酒器」の展示会などバラエティーに富んでいます。

「世界あみぐるみ展@NYC」ってどんな展示?

「世界あみぐるみ展@NYC」は、毎年12〜3月に開催。店内にあみぐるみ約3,000 – 4,000点を並べ、ギャラリー丸ごと「あみぐるみルーム」にする展示です。具体的には、ギャラリーの四方八方の壁から天井まで、ありとあらゆる空間をあみぐるみで埋め尽します。

毎年40カ国以上から集まった作品たちを、あえてごちゃまぜに展示することで、来場した方が「宝探し」感覚で、自分のお気に入りを探して貰えるのがポイント。1つお気に入りを見つけると、その作家さんの別の作品を探したり、探しているうちにまた別のお気に入りと出合ったり…と、楽しみが連鎖する仕掛けです。

来場者は通常の弊社の展示と比べ明らかに滞在時間が長く、時間をめいいっぱい使われ多種多様な作品に触れると共に、同伴者がいる場合は意見を交換し合います(ここ重要です)。

もちろん全ての作品が販売可能となっていますので、「お気に入り探し」を満喫されたあとの購入率が非常に高い展示会でもあります。自分の個性・好みに自信を持ち、他と違うことを恐れないアメリカならではと言いますか、他人の趣向などは全く気にすることなく「自分が好きなもの」を買われるので、もちろん作家間でどうしても人気の差というものはあるとはいえ、特定の決まった色・デザインのものばかり売れるということは全くありません。また、日本人として「こういうものが売れるのか、、」という日々驚きの連続でもあります。

出会いは偶然… 知れば知るほど虜になりました

最近では世界一の「ぬいぐるみ店長」と言われることもあるほど浸透していますが、元々は、ぬいぐるみについて興味も知識もありませんでした。ある日当社の文化教室で、日本舞踊の講師であった米国人の方が、「あみぐるみって知ってる?」と言って、ご自分の作品を持ってこられたことが切っ掛けです。

僕自身が全く知らなかったので Google 検索すると、日本発祥のかぎ針編みで作られたぬいぐるみと分かり、「これはおもしろい!」と興味を引かれて色々と調べました。

すると、Etsy(エッツィ)という手芸愛好家が自身の作品を自由に販売できるサイト(日本でいうCreema(クリーマ)のような存在)にさまざまな国のアーティストが出品しており、世界中に広まっていることが判明。「日本発祥の文化を、いろんな人種暮らすニューヨークに集めて展示したい。そして、どういう感想を持ってもらえるのか知りたい」と、夢中になったわけです。

世界中の作家数百人以上に自らアポイント

それから数年経ったある日、自社スペースを「あみぐるみルーム」にしてみたい、という構想が突然湧いてきて、すぐに企画書を書き、次の日から何日にも渡って徹夜作業でEtsyに出店していたり、自分の「Amigurumi」のウェブページを持っている世界中の作家、数百人に「僕はニューヨークでギャラリーをやっているものだが、あなたの作品が素晴らしいと思うので、是非この企画に参加して欲しい」とひたすらメッセージを送り続けました。

「おもしろい!やりたい」と協力的な方もいれば、「まさかNYからメールが来るなんておかしい。私の作品を騙し取りたいだけなんじゃないか?」と怪しまれるケースもあり初年度は苦労しましたが、メールや国際電話などで一人一人としっかりとコミュニケーションを取りました。結果的には160人ほどの方から参加したいとの返信をいただき、最終的に140人の方と契約に至りました。

プロジェクトが動きはじめてからも「世界各国からちゃんと荷物は届くのかな? 」「売り上げを各国にどう送る? 」など、課題は多かったのですが、全て走りながら手探りで進めました。最終的に全員がちゃんと作品を送ってくださり、構想を思いついてから約3カ月後には計4,000点ものあみぐるみが自社スペースに到着。

初年度の参加作家の出身国は、アメリカ、日本は当然のこと、ギリシャ、スペイン、ドイツ、フランス、アルメニア、クロアチア、エストニアなどなどヨーロッパ各国、中東からはイスラエル、またメキシコ、アルゼンチン、ボリビア、ウルグアイなど中南米、アジアからはオーストラリア、ベトナム、インドネシアなど。まさに世界各国から毎日続々と作品が届き、スペース内は個性たっぷりのあみぐるみでいっぱいに。

展示は大変好評でアメリカ国内に止まらず、世界各地から30件以上の取材を依頼していただき、多くのお客さんにご来場いただきました。ちなみに作品は全て購入可能で平均で2,000円くらい。毎年総出品数の約3割の作品が売れています。

ちなみに、2年目以降は初年度とは打って変わって、「私も是非参加したい!」という応募が次から次へと来るようになり、アフリカ大陸のボツワナ共和国のあみぐるみ作家の参加により南極大陸を除く(さすがに居なさそう・・)全ての大陸から参加頂ける展示会となりました。

こだわったのは「あみぐるみルーム」という展示方法

「あみぐるみをどう見せるか?」と考えた時に、世界のトップ作家一名、または数名による作品のみをガラスケースに入れて並べる方法を最初は考えました。しかし、僕が感じたあみぐるみの特徴である「多様性」を表現するには、世界各国から集まってきた、形態の異なる個性的な作品を一堂に集める方法がベストでした。こんなにも作風に幅があること、そしてこのアートが日本発祥であることをニューヨークの方達に体感してもらいたかったのです。

展示の様子はなかなか言葉では伝わりづらいと思うので、You Tube動画をご覧ください。会場のリアルな様子を見ていただけます。ちなみにこちらが2014年開催の第一回目の様子の動画です。今改めて見ると随分と荒削りだなぁと思いますが、自分のやりたいことが凝縮されている原石でもあります。

NYの冬は気温が氷点下になることも当たり前。そのため、どうしても小売店は客足が鈍ります。しかし、あみぐるみを買いに来る人だけではなく、飲食兼デートスポットとして、さらにはこの特別な空間で弊社が毎週開催する墨絵などアートクラスを受けてみたいという方がイベントやクラスに出席され、クラス後に食事を注文し、食べながらお気に入りのあみぐるみを物色、食後に購入しお帰りになるなんてことも多く、この目玉展示のお陰でうちは連日賑わい、文化発信を行うと共に、ビジネスとしてもこの時期はグッと客単価が上昇しました。

本展のユニークさは世界から集まる数千点もの作品 全てが異なるところ

「独自パターンの作品のみ」とルールに定めていて、「ピカチュー」など版権が関わるものや他の作家の作品でも販売許可を得ていないものはNG。分かった時点で展示から取り下げています。同じ作家が作ったペンギンでも、一つ一つが微妙に違っているところが「ああ、手作りっていいな」と感じられるところも良いですね。

毎年各作家に新たなNY在住のファンが付いていくのですが、そのような方々は、昨年買った同じパターンのものをまたあえて購入したり、それも「同じ作家のペンギンなけどすこーしだけ今年のペンギンは異なる、でもファンだからそれも欲しい」という、、、これは手作りだからこそ生まれる作り手と買い手のコミュニケーションと言えます。

この数千点の作品を作るために作家が費やした時間、エネルギー、そして気持ち、その全てを背負ってこの展示会をプロデュースさせて頂いていること、これほど幸せなことはありません。 

僕のテーマは日本文化を広げること
その過程で他国の文化と混ざり合い、新しいものができていく過程が非常に面白い!

日本の文化を広げるのが僕の仕事です。

その過程において、「日本発祥のものが世界に出た時、一体世界の方々にどういう風に咀嚼され、そして彼らの文化と混ざり合うことで変化を遂げていくか」ということを探求し、その進化をサポート、促進していくこと、それがRESOBOX社のテーマでもあります。

例えばここNYに集まったあみぐるみを見た時に、フランス人の作ったもの、チリ人が作ったもの、カザフスタン人が作ったもの…と、全て日本でベースが作られた「あみぐるみ」であるにも関わらず、各人が背景に持つ文化が注入された結果、一般的にある程度確立された形を持つ生き物、例えば同じ熊でも、全く異なる作品となります。メキシコでは、あみぐるみの呼称が変化し、「アミーゴぐるみ」(メキシコでアミーゴは友達の意)なんて言われていたりします。これもスペイン語という文化が加わったことで変化を遂げた一例でしょう。

人種のるつぼと言われるNYだけでなく、世界中でこのような文化のぶつかり合い、融合は日々起きていますよね。例えば皆さんご存知の「寿司」。日本から世界へ出る過程で、アメリカではカリフォルニアロールが大ブレイクするなど、各国で発展を遂げています。

中には日本人から見ると「こんなの寿司じゃない」と言いたくなるものもあるし、我々がまだ見たことないものが世界のどこかにまだまだあるかも知れない。文化は日々1日1日変わりゆくものなのだから、こうしているうちに、今日また世界のどこかで新しい寿司が生まれているかもしれない。

これこそが、僕がこの世界あみぐるみ展で日本人作家を含む世界中の作家達と協力しながら「あみぐるみ」という媒体を通して表現してきたことであり、またこの(賛否両論あった)壁いっぱいに作品を飾る展示方法に決めた理由でもあります。

この展示会のゴールは、「来場者にまずはあみぐるみという言葉を覚えてもらう」という小さなものから、「他のぬいぐるみとどう違うのかを伝える」というものであったり、また「あみぐるみの潜在的な可能性を掘り出し、同時に新たな可能性を追求する」といったものまで、まだまだ多くあります。

それら各々に対し僕があみぐるみ作家達とどのようなチャレンジを今までしてきたかは、「世界あみぐるみ展・後編」で触れておりますのでお楽しみに!

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