−伝統工芸士・松岡輝一さん編− ①京鹿の子絞 海外向け新ブランド設立


海外で挑戦するアーティストや企業担当者をRESOBOXスタッフがインタビューし、経験談やアドバイスを語っていただく「海外挑戦者インタビュー」シリーズ。第一回目は、呉服の製造販売店「京都絞美京」(京都府京都市)の三代目で、「京鹿の子絞」の伝統工芸士である松岡輝一さんです。2015年、京鹿の子絞を洋装に生かした新ブランド 「KIZOMÉ」を立ち上げ、2016年に発表。その後、海外展開に取り組まれています。

Q1・伝統工芸界全体の現状について教えてください
A・後継者難。しかし「ものを大切にする」日本の美徳も復活の兆し 

日本では、1960年代から「大量生産大量消費社会」になり、安いものを買っては捨てる「使い捨ての時代」が長期間続いています。伝統工芸は、手間やコストが掛かるため、多くの分野で衰退。そのため、後継者難などで先行きが厳しいのが現状です。
しかし、ここ数年〝心とものを大切にした急がない生活〟を取り戻す「スローライフ」を好む人が少しずつ増加。例えば「メルカリ」など、ネット上のフリーマケット運営アプリの流行もその現象の一つだと考えられます。ものを捨てずに循環させるシステムの流行は、日本人が「ものを大切にする文化」を取り戻しつつある証ではないでしょうか。この影響からか、4年前ごろから着物ブームも密かに拡大。「着物女子」という言葉が登場するなど、日常に和装を取り入れる人が少しずつ増えています。

Q2・松岡さんが海外で事業展開を始められた理由は
A・伝統を守るため。視野を広げる必要性

弊社は、京都に店を構える1937年創業の呉服屋です。私はその三代目として生まれ、伝統を次世代に繋げる使命を持っています。ただ、洋装で過ごす人が圧倒的多数を締める現代において、伝統を守るためには、和装にこだわらず洋装にも視野を広げる必要がある、そのためのイノベーションを進めたいと、年を追うごとに考えるようになりました。
一歩を踏み出した大きなきっかけは、2014年にパリで開催された「展示会」への出品です。京鹿の子絞のキモノとストールを作って展示すると、来場された多く外国人が、柄や生地の質感に興味を示されました。その時「ファッション好きに向けて、洋服のコーディネートに合うブランドを作りたい」と感じました。

海外向けの新ブランド「KIZOMÉ」がデビュー

また、日本で「職人」というと、一部の有名なアーティストを除き、裏方で地味な印象を持たれがちですが、パリでは尊敬の念を持って接してもらえました。昔から職人の文化が根付くパリでは、地位が確立されているからなのだそうです。「絞りの技術」をお話をした際も、皆さん熱心に聞いてくださって、「海外でなら高級な伝統工芸品のファッションアイテムも受け入れられそう」と期待が膨らみました。
そして、帰国後にプロジェクトを始動。2015年、スカーフやバッグなどのファッション雑貨をメインにした海外向けの新ブランド「KIZOMÉ」を立ち上げました。

Q3・進出する国はどのように決めましたか
A・発信力の強い都市に着目

国選びは、海外展開で重要なポイントになるため、事前の「マーケティングリサーチ」が欠かせません。弊社の場合は「京鹿の子絞」を生かしたファッション分野での展開ですので、この業界で発信力のある都市が適当であると判断。服飾の新作発表会「パリコレ」をはじめとする「ファッションウィーク」の開催地、パリ、ニューヨーク、ミラノ、ロンドンの四都市に着目しました。そして、最初の街として選んだのがパリでした。

活力に繋がる「夢」も重要

また、国選びのポイントとして、「夢」や「目標」の地であることも大切だと実感しています。例えば「パリコレのステージで披露したいからフランス」「トレンドとして世界に発信したいからニューヨーク」などです。海外進出を成功させるには、時間、資金、労力が必ず必要です。トラブルなどの壁も、何度も乗り越えなくてはいけません。「夢」は精神面を支え、突き動かすエネルギーになります。

Q4・海外に注力して、国内は大丈夫なのでしょうか?
A・〝ブーメラン〟効果に期待

発信力の強い国や都市で高く評価されたり、注目を浴びたりすることは、国内販売の際に起爆剤になる〝ブーメラン効果〟も生み出します。要するに「海外で人気になるなんてすごい!」と、日本での販売促進にも繋がる効果です。
この効果をいち早く取り入れた企業の一つが、1930年創業の眼鏡販売大手の三城(東京)さんです。73年にパリに海外1号店をオープンし、欧州で最先端のデザインや流行を取り入れながら、日本のメガネメーカーならではのハイレベルな技術や機能、品質を付加。これらの戦略が消費者に支持され、米国やアジア各国に店舗を広げるなど成功を納めました。自社の強みを生かしながら、進出国の文化と融合させることも成功に繋がる大切なポイントだと考えています。

2019年2月に米国で開催された見本市「NY NOW」での様子

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<編集後記>
今回、松岡さんのお話を伺って感じたのは、海外には日本に留まっていては知り得ない〝気づき〟がたくさん存在するということです。新たな〝気づき〟との出合いは、人生を豊かにしてくれます。
また、マーケティングリサーチはもちろん、「夢」を持つことが大切というお話も胸に響きました。「はじめることより、続けることの難しさ」を乗り越えるため、「夢」は持ち続けたいものです。それに会社の代表が夢に向かって突き進む姿は、社員の活力に繋がりますよね。
さて、連載2回目の次回は「海外展開する際に事前に行うべきこと」について教えていただきます。「KIZOMÉ」についてのお話も、次回以降の記事で紹介しますので、楽しみにしていてくださいね。