−あみぐるみ作家・光恵さん編−①「あみぐるみで世界を救いたい」米国進出で得たすべて


2019年冬、ニューヨークのRESOBOXでは今年5回目となるあみぐるみ展示会が開催されました。これに伴って行われたのが、あみぐるみ初心者のニューヨーカーに向けたワークショップ。手とり足とりあみぐるみの基本を教えていたのが、講師の光恵さんです。日本を代表するあみぐるみ作家として活躍する光恵さんは、常識にとらわれない型破りな作風で世界中の注目を集めています。個性的なあみぐるみのアイデアはどこから来るのか、またニューヨークに進出したことで制作活動にどのような影響があったか、2回に渡ってご紹介します。

ニューヨークで行われたワークショップの様子

編み物好きが高じて、個性派のプロあみぐるみ作家に

光恵さんはRESOBOXのあみぐるみ展示会に毎年出展しており、今回は自作のあみぐるみ、オランウータンのオランも一緒に連れてきました。オランは子供ほどのサイズがあり、毛並みも本物そのもの、まるで生きているようなあみぐるみです。「ニューヨークの電車の中で乗客の人に怖いと言われちゃいました。あまりにも本物に似ていたので気持ち悪がられたんでしょうね」とご本人も話す通り、そのリアルさが光恵さんのあみぐるみが持つ特徴のひとつ。可愛さだけにとらわれない独自のセンスとアイデアで、オリジナルのあみぐるみを追求し続けているのです。

Photographer: Bobby Lopez

 岡山で生まれ育った光恵さんが編み物を始めたのは物心ついたとき。おばあさんやお母さんと、親子三代で楽しんでいたそうです。働き始めてからは編み物と離れていた時期もあったという光恵さんとあみぐるみとの出会いは、結婚して二人目のお子さんを産んだ後のことでした。「元々インテリアコーディネーターの仕事をしていたんですが、二人目の出産を機に辞めて引っ越しをすることになりました。当時はおもちゃを買いに行きたくても小さな子供を二人連れて出掛けるのが大変で。そんな時編み物が出来たことを思い出したんです。毛糸とかぎ針はあったので、新たに手に取ったのがタカモリトモコさんのあみぐるみの本。これがあればおもちゃを作ってあげられると思いました。実際に作って子供たちにプレゼントした時に喜んでくれたのが嬉しかったです」。自分の手で何かを生み出すこと、編んで人が笑顔になることに喜びを感じて、その後はお子さんのためにあみぐるみを作り続けました。
 あみぐるみが趣味から仕事に変わったのは、お子さんたちが少し大きくなって一緒に雑貨屋に行けるようになった頃のことでした。「雑貨屋のオーナーに何か手作りをされる方なんですかと聞かれて、あみぐるみを持っていたので、こういうのを編みますと紹介したんです。するとうちの店にあみぐるみを商品として置かないかと言ってもらえて。お客さんからお金をもらって売買するので、お母さんとしてではなく作家として扱いますとオーナーに言われたとき、違う次元で作らなきゃいけないんだと気づきました。これまではわが子のために編んでいたけど、他の人が笑顔になるものを編みたいと思ったんです」。

手作りのあみぐるみは、お子さんの大切な宝物に

追求し続けている、自分だけのオリジナル

お子さんのために作っていたあみぐるみと違い、いざプロとして販売するとなったときに必要とされたのがオリジナリティ。他の作家の作品と似たものを販売するわけにはいかないので、どのように自分ならではのオリジナル作品を作るか思案したといいます。「可愛いあみぐるみや流通している毛糸にはすぐに飽きてしまって。自分だけにしか編めないものができないかなと思うようになりました。前職の社長に、他がやっていないことをやりなさいと繰り返し言われたのも影響していると思います。例えば自分の好きな動物だったら、どの特徴をどう表現するか。具体的には一部を羊毛フェルトに変えたり、異素材を組み合わせたり、リアルな動物に見せるためにファーヤーン(エコファー)を使ったりして、自分にしか合わせられない表現方法を模索しました。祖母や母がストックしていた昭和の毛糸を探し出して仕上げたこともありました。ひと玉しか残っていないので、それで足りなかったら完成しない、いちかばちかです」。そうしているうちに、どれだけの毛糸でどのくらいのあみぐるみが作れるか、目分量であたりをつけながら編むことが出来るようになりました。そしてこの感覚が、珍しく貴重な素材を活かした光恵さんならではのあみぐるみ制作に役立っているのです。
 そんな光恵さんがオリジナル作品を作る上で重視していることのひとつが「リアルさ」です。実在する動物であれば、忠実にあらわしたいパーツがあるときは動画で動きや筋肉のつき方、骨格、生態、住んでいる場所や食べ物などの情報を頭に入れてから編むのだそう。空想の世界の動物なら、自分だったらこういうユニコーンやドラゴンがいたら面白いと細部まで妄想します。「そうすると、獲物を見つけたら目がこうなるんだろうなとか想像がしやすくなるんです。一方で、まつ毛を付けたほうが面白く、可愛くなるんじゃないかなというアイデアとのせめぎあいもあります。常に頭の中ではリアルさと面白さを追求していて、結果としてそれがオリジナルになっているのかもしれません」。

まるで本物と見紛うような、あみぐるみの日本猿の親子

育った環境とキャリアがより良い作品作りへと導く

人と違う表現にこだわること、リアルさの追求の他、個性的な作品づくりの秘訣は彼女の生い立ちと前職にヒントがありました。インテリアコーディネーターだった光恵さんは、前職とあみぐるみ作家の共通点として「設計は図面から立体を作るので、その過程があみぐるみと似ているんです。平面から立体にする過程や、3Dを頭に描きながら平面に書くというのに慣れているんだと思います」と説明します。また、育ってきた環境も彼女のあみぐるみ制作に影響を与えています。「元々田舎に住んでいたので、祖母は畑仕事、父は学習机を作ったり、母はパジャマを縫ったりベストを編んだりと、物作り一家だったんです。子供や家族のため、物が壊れたらすぐに捨てずに直し、無かったら自らの手で作り、とにかく物を大事にする暮らしでした。だから毛糸の糸端はオシャレな瓶に詰めて飾っておくとか、そこからオシャレなチョーカーを作ったりとか、『糸くず』として捨てる部分が毛糸にはないと思っています。料理人が骨の髄まで素材を大事にするのと同じですね」。このような信念を大切にし、教室の生徒さんにも毛糸を無駄にせず、何センチか残っていたらとっておいて違う作品に生き返らせてほしい。そこからオリジナルを作るアイデアが浮かぶことや、助けてもらえることがあるから大切にして欲しいと伝えているのだそう。「どう編んだら面白く、良い作品になるか。毛糸の良さを活かしきれているかが常に頭にあります。せっかく良い毛糸であっても編んで駄目にしたくない。素材を大事にしたいので、良い表現をしてあげたい。編んでいてそれは意識しています。」というコメントからも、光恵さんのアイデアの源泉が物を大切にするところから来ているのがよく分かります。また、この信念は彼女の将来の目標へとも繋がっていくのです。次回の記事で詳しくご紹介します。