−伝統工芸士・松岡輝一さん編− ② 海外展開前に行うべきこと


呉服店「京都絞美京」の三代目で、「京鹿の子絞」の伝統工芸士の松岡輝一さんに海外進出の体験談を語っていただく連載シリーズ。2回目は、「海外展開する際に事前に行うべきこと」として、〝自社の強み〟を追求することの大切さについて教えてもらいました。

Q5・ 海外展開に向けて、事前に行うべきことを教えてください
A・徹底した自社分析 高度な職人技を最大の武器に 

おそらく、海外進出する多くの企業が、専用の商材を作ったり、新ブランドを立ち上げたりするのではないでしょうか? その際に事前に行うべきことは、〝自社の強み〟と〝改善点〟の把握です。徹底的に掘り下げた上で、商品を作ることをお勧めします。

世界が驚愕 手仕事が生む美しい柄

弊社の場合は、歴史や技法を徹底的に追求しました。絞り染めは、生地の一部を縛るなどした状態で染料に漬けて染めることで立体的な模様を生み出す技法です。世界各国の古代遺跡で発掘されるなど各地に存在します。日本では万葉集の中で描かれるなど7世紀ごろに登場。室町から江戸時代に確立されました。
当時の日本は鎖国状態にあり、他国から文明の利器が入ってこなかったため、多くの職人が競って技術を磨きました。その結果、他国には真似できない卓越した技法や柄が多数生まれました。「京鹿の子絞」もその一つ。高度な職人の技術が必須です。海外の展示会などで、作る工程や技法をお伝えすると「なんてクレイジーなんだ!」と、驚かれます。弊社の場合は、この高度な技術が創出する美しい柄を最大の強みに、商品作りを行なっています。

Q6・改善点はどのようにクリアしましたか
A・最新技術の3Dプリンタを採用した「デジタル3D絞」(商標登録済)

もちろん解決しないといけない問題もありました。その一つが「道具」です。伝統工芸界では、工芸品を作る職人以外に専用の道具を作る職人の高齢化や後継者不足も深刻です。「この道具が壊れてしまったら、もう作ることができない」といった問題に直面している工芸士も多数います。
そんな中で、弊社が取り組んだのが、最新技術を取り入れること。3Dプリンタで製作した型で「板締め絞」を表現する「デジタル3D絞」(商標登録済)に挑戦し、成功しました。「板締め絞」とは、図柄を彫った木型と生地を、二枚の板で挟んで染めることで、型の部分がふっくらと浮き上がり、立体的な模様が表現できます。
模様の核になる木型を作る職人が減少する中、たまたま出合えた最新技術。型作り以外は、従来通り職人が手仕事で行なっております。日々進化するテクノロジーなど、最新の技術を学び、取り入れて行くことは、今後続けて行くために大切なことだと考えています。 

Q7・海外進出向け商品を作る時のアドバイスはありますか?
A・「リサーチ」と「匙加減」を考慮した商品開発を

まずは自社の商材について、海外でのニーズを探ることです。弊社の場合はファッションブランドとしての進出でしたので、海外の方に好まれる色や形、デザインなどを探りました。例えばアイテムカラーは、欧米人の肌や髪の色を考慮すべきですし、彼らの色に対する好き嫌いも知っておく必要があります。
ただし、ここで注意すべきなのが合わせ過ぎはよくないということです。弊社の場合、京都の伝統工芸である「京鹿の子絞」が主役ですので、あくまで「日本らしさ」を生かし、商品開発を進めました。丸っ切り西洋のものになってしまっては、ただの日本製というだけで、弊社の良さや強みが伝わりません。

日本らしさ生かし ストーリーも伝えよう

例えば、青は日本の伝統カラーである藍色から、ピンクは桜の色を参考にしながら白人の肌に映える色を選びました。また、商品名も「うろこ雲」「ひつじ雲」など、柄からイメージした日本語を選びました。これらは商品説明の際に喜ばれ、購入していただくきっかけにも繋がっています。
海外展開する際に、日本で販売しているものと全く同じ内容で成功するケースもあるのかもしれませんが、国が違えば、住む人の体型や肌の色はもちろん、文化や好みが違うのが当たり前です。しっかりとリサーチした上で商品を作ることをお薦めします。

Q8・海外用の商材の価格はどのように設定されましたか。
A・安売りはNG! 目先の利益より将来を考慮

海外での商品展開は、輸送費や関税などで経費が掛かるため、日本での卸値の2〜2.5倍になってしまいます。もちろんそれに伴い販売価格も高くなるのが自然。「高価だと売れないのでは?」と、〝売れるために卸値を下げると方法〟はお勧めできません。なぜなら、利益が出ず、職人や会社に負担がかかったり、赤字になってしまったりするようでは意味がないからです。
ブランディングをしっかりと行い、「技術」という「強み」を生かすことができれば、勝算は十分にあります。目先の利益ではなく、長い目で考えて戦略を練るべきだと私は考えます。

<編集後記>
今回は、「自分自身を改めて深掘りすることで、プッシュすべき長所に気付けたり、新たなアイデアと遭遇できる」というお話でした。新しいアイデアに気付た時、それを受け入れ、生かすことができるかは自分次第。柔軟な姿勢や、素直な心を持ち続けることが成功への第一歩かもしれませんね。
また海外向けの商品開発の裏話も参考になりました。確かに、海外向けの商材で、伝統工芸の良さが失われ、ただ単におしゃれになった商品を何度か見たことがあります。それはそれで良いかもしれませんが、日本の技術力をアピールしたいならデザインは日本的な方が説得力がありますよね。さて、連載3回目・最終回の次回は「言葉と文化の壁」「成功するまでの期間」について教えていただきます。

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【教えてくれた人】伝統工芸士・松岡輝一さん
まつおか・きいち 1968年、京都府生まれ。「京鹿の子絞」染色部門の伝統工芸士。1937年創業の「京都絞美京」の三代目として京鹿の子絞りと京呉服の製造販売を行う。2016年、京鹿の子絞を洋装に生かした新ブランド 「KIZOMÉ」を立ち上げ、海外展開にも精力的に取り組む。着物のプロデュースやデザインも担当。

●「株式会社RESOBOX」はニューヨークを拠点に幅広い企業を対象にした海外進出支援サービスと、バラエティーに富んだ文化事業を展開しております。問い合わせなど、詳しくはHPをご覧ください→https://resocreate.com

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