−伝統工芸士・松岡輝一さん編−③言葉と文化の壁を越え方、成功するまでの期間は


呉服店「京都絞美京」の三代目で、「京鹿の子絞」の伝統工芸士の松岡輝一さんに海外進出の体験談を語っていただく連載シリーズ。最終回は「言葉と文化の壁」「成功するまでの期間」について教えてもらいました。

Q9・言葉の壁はどのようにして乗り越えましたか
A・話せることが絶対条件ではない

言語に関しては、進出する国の言葉を話せることがもちろんベストです。ただ、簡単に習得できるものではありませんよね。私自身もまだまだ挑戦中です。現状はというと、できる限りの単語とボディーランゲージを駆使して頑張っています。
とはいえ、展示会などの交渉の場では、きちんとした言語が必要になるため、通訳を雇って対応しています。ただし、最初から全てを任せるのではなく、自分も横で話を聞き、ある程度は相手の意思を理解し、自分の思いや熱意を伝える努力はしています。

ドイツのフランクフルトで開催された見本市「Ambiente 2019」の様子

培ってきた人柄と熱意も大事

人は不思議な生き物で、目を見ればどれくらいの熱意を持って取り組んでいるのか、また、本気の度合いが如何程か、自然と伝わってきます。相手の意図を知ろうと歩み寄る努力は、交渉を円滑に進める一つの要因になると私は考えています。ですので、まずは商材や商売に関わる単語だけでも覚える努力はすべきでしょう。
外国人にとって、日本の伝統工芸品は未知の分野です。「通常だと喜ばれるはずの大量発注を断られる」「想像より値段が高価」という疑問に対して、「少ない工芸士が手作業で作るため、短い期間で納品できない」「材料が希少なため高価」などの理由を、相手の立場に立って丁寧に説明することが大切です。

Q10・海外での展示会で注意すべきことは?
A・保留はNG 決定権を持つ人を店頭に配置 

展示会での商談は、即座に対応できるスピード感が大切です。例えば、現地のバイヤーに「この商品を○○○○円で、○○○点お願いしたい」と声を掛けられた時、その場で交渉に応じられるとベストです。ですので、商談の際には代表者など決定権のある人間が店頭に立つことをお薦めします

「Ambiente 2019」に出品した商材

「考えておきます」の意味合いは? 言葉の使い方も注意

また、文化の違いによる言葉の使い方の違いも知っておくと良いでしょう。例えば京都で「考えさせてください」と言われた場合、先方に買う意思はほとんど無く、断り文句のようなものです。しかし海外では、本当に気に入ったため「きちんと検討して、再度相談したい」という意味で使われるケースがほとんど。文化の違いがある海外での会話は難しいものです。疑問に感じたことなどは現地の日本人に相談するなどし、文化差によるトラブルがないようにしたいものですね。文化の違いがある海外での会話は難しいものです。疑問に感じたことなどは現地の日本人に相談するなどし、文化差によるトラブルがないようにしたいものですね。

外国の方達にわかりやすく実演する松岡さん

Q11・ 何年くらいを目処に挑戦すべきでしょうか
A・最低3年は辛抱。少しずつ積み上げることが大事

私の実感だと最低でも3年は掛かるでしょう。例えば海外で展覧会を開くにしても、1回目で判断はせず、最低でも3年は連続して出展することをお薦めします1年目は現地での反応を見るなどのリサーチを行い、2年目は前年の経験を生かし、ブラッシュアップした状態での挑戦、3年目にやっと現地バイヤーに認められて商談が進むといった流れでしょうか。もちろん、商材やタイミング、運などで差はあります。
1年目は現地での反応を見るなどのリサーチを行い、2年目は前年の経験を生かし、ブラッシュアップした状態での挑戦、3年目にやっと現地バイヤーに認められて商談が進むといった流れでしょうか。もちろん、商材やタイミング、運などで差はあります。また、一気に大金を費やし、一か八かの賭けに出るようなことはせず、会社も自分も無理はし過ぎず、できる範囲で少しずつ積み上げることが大切です

Q12・海外進出を目標にされている方へメッセージをください
A・代表が先頭に 仲間を大切に 

新しいことを始めるには、金銭面は当然のこと、精神・体力的にも忍耐が必要です。会社であれば社長など、代表となる人間が先頭に立ち、メンバーを引っ張らなくてはいけません。
人に恵まれると精神面で支え合えたり、良いアイデアが出たりと相乗効果で期待以上の結果も得られるものです。

伝統工芸は世界で通用する! もっと活気付いてほしい 

弊社は、 海外向けのブランド「KIZOMÉ」の立ち上げから3年が経ちました。売り上げの比率は、現在のところ着物が92%、KIZOMÉが8%です。
近い将来、この割合を50/50ににすることが私の目標です。現状は40、50代のお客様が大多数ですが、今後は次世代を担う20代の若者を振り向かせたいですね。海外進出をして良かったことは、自分の会社をはじめ、京都の伝統産業が世界で通用することが分かったこと。そして、自身が海外に出たことで、周囲の伝統工芸士の皆さんの良い刺激になっていることです。良い連鎖が次々と生まれ、今後、日本の伝統工芸全体がより活気付くと嬉しいです。

<編集後記>
言語はもちろんですが、文化の違いを考慮することも商談をまとめる大切なポイントです。通訳を雇う際も、両方の国の文化を熟知した人に依頼できると良いですよね。そして、熱意も大事というお話も参考になりました。頑張る人に惹かれたり、応援したくなる気持ちは世界共通なのですね。
「なんて丁寧で、親しみやすい方なんだろう!」。松岡さんに取材させていただき、一番最初に感じたことです。伝統工芸士で京都の老舗の三代目という肩書きに緊張していた私の心を一気に解きほぐし、興味深い海外展開の世界に引き込んでくださいました。人柄も成功の鍵だと確信した時間です。
そして、「KIZOMÉ」のストールを身に付けられた松岡さん、とてもカッコイイんです! この和の雰囲気の逸品、男性が洋服と合わせても素敵なんですよ。ぜひ、HPで確認してみてくださいね。松岡さんはNYの弊社ギャラリーでも2017年9月に展覧会を開いてくださっており、また、お越しいただけることになっています。詳細は決まり次第、RESOBOXのHPでお知らせしますので楽しみにしていてくださいね。

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【教えてくれた人】伝統工芸士・松岡輝一さん
まつおか・きいち 1968年、京都府生まれ。「京鹿の子絞」染色部門の伝統工芸士。1937年創業の「京都絞美京」の三代目として京鹿の子絞りと京呉服の製造販売を行う。2016年、京鹿の子絞を洋装に生かした新ブランド 「KIZOMÉ」を立ち上げ、海外展開にも精力的に取り組む。着物のプロデュースやデザインも担当。

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